tales | ナノ

くるくるふわふわ、皮肉でも何でも無く本当に背中に羽でも生えているのでは無いかと思うほど、こいつの戦い方は優雅でまるでダンスでも踊っているのかのよう。それに俺さまはいつも視線を奪われて、ほう、とした表情になるのを隠せない。嗚呼どうしてこいつはこんなに綺麗な身のこなしをするのだろう、何て華麗にステップを踏むのだろう、ほら、まるでワルツを見ているかのよう。しぶとくあいつに襲いかかっていた魔物が俺さまの口から発せられた術に巻き込まれ断末魔を上げ絶命した。魔物の中でも爪が鋭いやら尖った武器でも持っている部類の奴は頂けない、あいつの肌に深い傷をつけるかもしれないから。折角綺麗な肌なのだから出来る限り傷付いて欲しくない。俺さまの目の保養が減るなんてとても、とても悲しい。ふう、と息を吐けば、先程まで前衛で優雅な戦いをしていたあいつがぱたぱたと俺さまの方へと小走りにやってきて「悪いな、助かった」とふわりと赤毛を揺らして微笑んだ。この笑顔を見ると不意に泣きそうになってしまう。こいつをずっと一緒に生きてきた俺さまにしてみれば、この男が何か企んだり隠したりする為では無くただただ純粋に笑うと言う行為をする事が奇跡のように感じるのだ。これは決して大袈裟に言っているのでは無く、事実。本音を口にする事を避けて本当の自分を見られるのを極端に拒んで、ひたすら他人を心の中で拒絶し続けて、いつの間にかこいつの中で笑顔を見せる事が愛想笑いをする事へとすり替わってしまっていた。ハッキリ言って諦めていた、もうこいつが本当の笑顔を見せる事はないのだろうなと。

でもこの考えは急に俺さま達の前に現れた一行によって覆されたのだ。お人好しの集まり。無駄に馴れ馴れしい奴等。田舎者。今まで接した事の無いタイプがぞろぞろと目の前で現れて、警戒しながら旅に同行してみれば、その旅は正に驚きの連続。有り得ない、どうして、何で、馬鹿かこいつ等、おかしい、変、そんな事ばかり思う毎日。勿論俺さまだけでは無くこいつだって同じ思いを持っていた。「気持ち悪い連中だ、俺さまその内吐いちゃうかも」とこれ以上無い程に不愉快そうな表情で俺さま何度もそう言ってきていたのだから。しかも俺達は言わば裏切り者。不気味だと思うほど無邪気な笑顔や率直な言葉を身に浴びて居心地の悪い事この上無い。それでも、もうすぐ終わると言い聞かせて、ずっと笑顔を続けてきた。そしてばれた裏切り。きっと酷く恨まれるのだろう、罵声を浴びせられるかもしれない。いつしかそんな事ばかり考えるようになっていた俺さまにとって裏切りが伝わった時ほど何かを恐ろしいと思った時は無かった。そして蓋を開けてみれば、まさかの「裏切りがばれて剣すら交えたのにまた仲間として旅を続ける」と言う傍から見れば不思議で理解し難い超展開。でも、戻って来いと伸ばされた手を無意識に握っていたのは間違い無く俺さまとあいつの意思。いつの間にか、お人好しのそいつ等がいる空間が俺さま達にとって返るべき場所となっていたのだ。信じられなかったけれど、嫌じゃなくて。俺さま達を変えてくれたのは間違いなく熱血漢のロイド君を筆頭とした頼もしい彼らなのだ、そしてこいつの笑顔を取り戻してくれたのも彼等の温かさがあってこそ。嗚呼、考えただけで泣きそう。この幸せを守りたい。こいつがずっと笑っていられる様に、俺さま、頑張りたい。

「げ、ちょ、何で泣いてんの?!俺さま何かした?!」

「あー!あの女好きのアホ神子が女の子泣かせてるー!」

「ほんとだ!ゼロスお前最低だぞ!」

あらら?俺さまってば本当に泣いちゃってんの、格好悪い。ロイド君とジーニアスにからかわれているあいつの声を聞きながらぽろぽろと流れる涙を止めようと目を擦って見てもそれは一向に止まる様子は無い。嗚呼困ったなあ…、「大丈夫?アホ神子が本当に何かしたの?」そう言ってジーニアスが子供特有の大きな瞳を不安げに震わせて俺さまの顔を覗き込んでくる。何これ、キュンときた。母性愛?そんな事を考えながら少しだけ視界を上げれば、ジーニアスと同じ、不安げな瞳をしたあいつとロイド君が俺さまを見ているのが視界に入った。……折角幸せな空間にいるのだから、それを存分に楽しまないと損、だよなあ?ううっ、とわざとらしく嗚咽に似た声を出してにやける口元を顔を隠す様に手で覆う。空気が一気に忙しなくなったのが手に取るように分かる。女の子が泣く、なんて男としては避けたいところなのだろう。しかも今は他の女の子達とリーガルとは別行動中、もし今合流しようものならお構いなしにリフィル先生とリーガルの大人組から説教されるだろうから余計に。

「いくら女好きだからって…馬鹿…!」

俺さまが声を震わせてそう言った直後、最低!馬鹿!何やったか知らないけど謝れ!姉さんに言いつけてやる!とわいわい批判の声があいつに浴びせられたのは言うまでも無い。

(ちょっとハニー!急に俺さまに対してこの酷い仕打ち何?!)(べッつにー?そーゆー気分だっただけー)

やっと手にした幸せを、大好きな君と噛み締めたいだけだよ。


thanks! wizzy




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