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(…寒い)

今夜は特に冷え込むみたいだから温かくして寝るように。宿だからって気を抜いちゃだめよ。特にロイド、お腹を出して寝ないこと。寝る前にそうリフィル先生に言われたことを薄らと思いだして毛布を手繰り寄せる。温かい。そう思ったとき、ふと視界に赤がちらついた。ゆらゆらと揺れるそれには見覚えがある。その赤を辿って視線を上に上げていけば、予想通りの横顔に行き着いた。(やっぱりゼロスか)手にはそれなりに分厚い本を持っており、どうやら読書に勤しんでいるらしい。けれど時間はもう午前2時を指そうとしているからそろそろ寝ないと明日辛いと思う。リフィル先生やジーニアスも本を読みだすと時間を忘れて熱中することがある。その度に俺や皆が声を掛けているのが今もそうした方が良いのだろうか。

そう考えているとこちらの視線に気付いたのか、また赤がふわりと揺れてアイスブルーの瞳が俺を映した。俺が起きていることに驚いたのだろう、大きく瞳を見開いてけれどすぐにゼロスはいつもの様にへらりと笑う。まだ起きるには早いぜロイド君、とでも言いたげな笑みに俺はあえて体を起こし「こんな遅くまで何読んでるんだ?」とゼロスが持っている本を指す。少し間が開いた後「ああ、モンスター図鑑」とこちらに表紙を見せてきた。確かにそれは新しいモンスターに遭遇するたびに書き留めてきた図鑑である。「相手の弱点知っている方がやっぱ都合良いだろ」そう言って視線を本に落とすゼロスをぼんやりと見つめる。俺は今までこいつは、軽くて調子が良くて、こんな影の努力っていうのをしないタイプだと思っていた。でもそれは大きな間違いだったらしい。「お前って、偉いんだな」ただただそう思ったことを口にすれば、「……え?」とゼロスが意味が分からないといった様子でとこちらに視線を向けるものだから「だってそうだろう」と笑いかける。

「俺強くなりたいって思うけど、やっぱり勉強っぽいこと苦手だからそんな風に本に向き合ったりとかって出来ない。でもお前はこんなにも一生懸命になれてる、だからすげーって思うよ」

勉強嫌いが自分の短所だとは周りからも散々言われているし自分でも良く分かっていることなのにどうしてもこれは改善できない。だから自分に出来ないことをやってのけるゼロスのことを素直にすごいと思う。それに、こうやって誰にも気付かれない場面で努力している姿はとても格好良い。だってそれは頑張ったから褒めてもらえるとか、感心してもらえるとか、そういう見返りを求めていないってことだろう?俺はやっぱり誰かにすごいとか偉いとか言ってもらえる方が嬉しい。ついその言葉を求めてしまう。

「お前って頑張り屋なんだな。知らなかった」

そう言ってまた笑えば、ぽかんとした表情で俺の言葉を聞いていたゼロスがはっと我に返ったように「ちょ、ちょっと何言ってんのロイド君」と慌てふためいた。

「俺さまをハニーみたいな熱血馬鹿と同類みたいな言い方するなんて心外だっての」

わざと俺を怒らせてさっさと話題を逸らさせたい、ゼロスの顔にはそう分かりやすく書いてあった。時間も深夜であり部屋の明かりも消しているため机の上のランプだけが部屋を照らす。そんな中でもゼロスがうっすら頬を赤くしているのが分かった。もちろんその理由も。

「照れてる」

そうずばり指摘してやれば今度ははっきりと頬を朱に染めた。「な、なに言ってんの」と強がっているけれど、その声すら動揺で震えている。落ち着かないように視線をあちこちにやっては必死に俺の言葉を受け流そうとしているゼロスはなんだかとても面白い。いつもへらへらして俺をからかったりしてくるこいつがこんなにも慌てている姿なんてきっと滅多に見れないだろう。そう思うともっと意地悪したくなってしまうわけで。俺はベッドから出て、緊張気味のゼロスの後ろから本を覗き込んだ。そこには見覚えのあるモンスターが載っておりそう言えばこんな敵もいたかと思い出す。でも確かそのモンスターはここら辺には生息していない、もっと遠くで存在している下級のモンスターだったはず。なのにしっかり目を通しているなんて勉強熱心だな。ジーニアスに言ったらきっと本当かと疑われるだろうな、そんなことを思いながら「やっぱ偉いな」と呟く。

どうやら完全にゼロスの許容範囲を超えたらしく、ぱたんと本を閉じて俺を睨んできた。耳まで真っ赤にして唇を震わせて何か言いたそうにしている。俺の言葉一つ一つにここまで感情を表に出してくれるなんて、すごく嬉しい。そう、これが俺の本音。別に意地悪したいわけではなくて、あまりにも素直に、らしくなく感情をくれることが嬉しいからもっとそんなところを見せて欲しいと思うのだ。ゼロスからしてみればこんな迷惑な話はないだろうけれど。いや、迷惑なんじゃなくて恥ずかしいだけかな。でも偶には良いだろう。ゆっくりとゼロスの首に腕を回せば、何か嫌な予感がしたのか苦笑いをしながらゼロスが話しかけてきた。

「な、なあロイド君。完璧な俺さまを褒めたい気持ちは良く分かったからさ、離れてくれね?流石に俺さまももう眠たいし…?ロイド君だってまだ眠いだろ?」

まあ確かに眠たい。けれど今はそれよりもまだこうしていたい気持ちの方が強いのだ。でも、多分そろそろ寝ないと明日辛いのは目に見えている。それにこのまま続ければきっとゼロスが参ってしまうだろう。そう思って最後にそっと耳元で囁く。

「素直に褒められれば良いのに、案外照れ屋だよな。そういうとこも可愛いけどさ」

「は…っ?!」

それだけ言って俺はぱっとゼロスの首に回っていた腕を話してそのまま今度は腕を持って立ち上がらせて「一緒に寝ようぜ」とベッドへと少し強引気味に連れて行く。こんな寒い日にはくっついて寝た方が絶対に良い。そうすればまた寒さで起きることもないだろうし。横でゼロスは何か文句を言っているけれど、そんな顔を真っ赤にして照れながら怒られたってちっとも怖くない。「分かったって」とにやにやしながらその言葉たちを受け流して、俺はぽすんと体をベッドに沈める。どれだけ抗議したって無駄だと悟ったのか、ゼロスも一度大きな溜め息をしていそいそとベッドに潜り込んできた。するとくいっと俺の服の裾を掴んできて、とても小さな声で「俺さまがこんなことしてたなんて、誰にも言うなよ」と言いさっと頭から毛布を被ってしまった。はは、言わないよ、言うわけないだろ。ゼロスがこんなにも頑張り屋の努力家で、すぐに照れる可愛い奴だってことは俺だけが知っていればいい。俺だけが知っていたいから。

thanks! ハーケンクロイツ



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