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はあ、と俺さまは軽く息を吐く。ああもう、疲れた。太陽の照りつける中をエクスフィア回収の為に移動と戦闘を繰り返して進めば、体力はあっという間に奪われる。今日こうして宿に泊まれなかったら正直体が持たなかったと思うほどに疲労がたまっていた。勿論この旅を止めるつもりはない。俺さまはどこまでもロイドくんについていくつもりだ。けれど、疲れるものは疲れる訳で。ぽすんとベッドに腰を下ろし、腕を覆っていた手袋も外す。久しぶりにゆっくりと休めることに安心してもう一度息を吐き窓から外を眺めれば、小さな光が点々と夜空で輝いているのが見えた。星を綺麗だと思うくらいの心の余裕はまだあるらしい。
そんなことを思っていると部屋の扉が開きロイドくんが入ってきた。いや、そもそもここはロイドくんの部屋でもあるのだから帰って来たというべきだろう。宿につき荷物を置くとすぐに「ちょっと待っててくれ」と出ていったものだから何処に行っていたのかは分からないけれど、ロイドくんが手に持っているもので大体の予想はついた。淡いスカイブルーの色をした、小さな長方形の形をしたそれ。どこからどう見てもアイスだ。確かこの村の入り口で上品なマダムが売っていた気がする。きっとロイドくんもそれに気付いていたのだろう。勿論視線はアイス一直線だったろうが。

「ほら、溶けないうちに食べようぜ」

「サンキューハニー。珍しく気がきくねえ」

珍しいってなんだよ!そう言って頬を膨らませ少し不満気味なロイドくんを笑いつつアイスを受け取り、しゃり、と氷の音を楽しみながらゆっくりと食べていく。ロイドくんも同じようにアイスを食べながら俺さまと同じベッドに腰掛けて袋から取り出した地図を白いシーツを覆うように広げた。その地図には所々バツ印がついており、それはエクスフィアを回収した場所を示している。まだ旅を始めてあまり日が立っていないけれど、印の多さを見る限りそれなりに順調なすべり出しだろう。けれどまだこれからだ。時間が経つにつれエクスフィアのある場所は分からなくなってくる、だからそうなってしまう前に出来る限り多く回収しておきたい。

赤いグローブが地図の上をすっとすべり、それに合わせてロイドくんが今後の予定を話していく。その内容は意外と計画的で時間の無駄がない。きちんと計算されているもの。まあロイドくんが勉強以外なら結構頭の回転が速いのは知っているけれど。まあ、もう少しこの真面目さを九九にでも使ってやればいいのにと思わないことはないが。一通り予定を話し終わったロイドくんは、少し不安そうな顔をして俺さまに意見を聞いてくる。エクスフィア回収と言う大役が不安なのだろう。だからいつもの様に突っ走ってばかりではいられない。ハニーてば面白い。そう思いながら「良いんじゃねえの」と返事をしてやれば、ロイドくんは安心したようにへにゃりと笑いアイスを頬張る。それにつられるように俺さまも微笑みアイスをぺろりと舐めた。その時、鷹色の瞳がこちらをじっと見ていることに気がついた。

「な、何かなロイドくん」

そう問いかけても「んー」とか「何でも無いよ」とか、曖昧な返事が返ってくるばかり。けれど確かに視線はこっちに向いているのだ。あまりにも見てくるものだから俺さまの方が恥ずかしくなってきてしまう。ロイドくんのことだからアイスが欲しいのかと思ったけれど、まだ自分の手元に半分以上残っているのだから考えにくい。けれど、それ以外だとするなら何故。分からない。何なのハニー。そうしてロイドくんを警戒しているうちにアイスがどんどん溶けていくものだから慌ててぺロリと手を舐める。今から寝るシーツをベトベトにするなんてごめんだ。

その時、不意にロイドくんがずいっと近寄ってきて、距離を取る間もなく手首を掴まれてしまった。ぎゅっと掴まれた手首から伝わる熱にびくりとする。ぽたぽたと手に落ちていくアイス。けれどどうすることも出来なくて、唯溶けていくのを冷たさで感じるだけ。視線を外せない。何、ロイドくん、俺さまそんなに見られてもどうしたら良いのか分からない。

「ゼロス、舌、だして」

突拍子のないその要求を拒否したくなる。けれどそうすればもっと悪い状況になってしまう気がして、俺さまは恐る恐る舌をだす。ロイドくんが何をする気なのか全く予想付かない。でもきっと、俺さまにとっては良くないことだろう。ゆっくりと近付いてくるロイドくん。息が顔にかかるまで近くなって、ああキスするのかと少し安心した。キスは、俺さまにとっても悪いことじゃないから。上手くはないけれど、ハニーのキスは優しいから、温かいから、愛を感じるから、好き。

そしておとずれたのは、ぺろり、と、舌を舐められる感覚。え、あ、えっ、い、今ハニーなにしたの!じわりとまだ残る舌への違和感。体の温度が急上昇していく。何、意味分からない!恥ずかしいどころの騒ぎでは無い。舌を誰かの舌で舐められるだなんて経験あったものじゃない。ディープキスはまだキスをする上で舌を絡ませるのだから良い。けれどこんな、舐めるだけの行為、俺さま知らない。

動揺する俺さまに気付いているのかいないのか、ロイドくんは犬にでもなったかのようにその理解しがたい行為を繰り返す。舐めては離して、また、舐めて。ぶるりと背筋が震える。恥ずかしい、おかしい、気持ちいい。たくさんの感情が脳を一気に駆けめぐり、俺さままで変になってしまいそうだ。その羞恥に耐えられなくなりいよいよ泣きそうになっていると、どうやらロイドくんは満足してくれたらしく、その不可思議な行為をやめてくれた。

「なんで、舌舐めたりしたの」

唇を押さえて震える声でそう言えば、ロイドくんは何度か瞬きをして無邪気に笑った。

「ゼロスがアイス食べてるとさ、舌がちらちら見えて、舐めたいと思ったんだよ」

その言葉に今度こそ泣き出したくなる。ただアイスを食べていただけなのに、そんなことを思われていたと知ったらもう食べ物をぼんやり食べることが出来なくなってしまう。何か文句の一つでも言ってやりたいのにあまりに色々な感情がこみ上げてきて言葉が喉につっかえて出てきてくれない。 するとなにを思ったのかロイドくんが「ごめん」と謝ってきた。普段どこまでも鈍感なロイドくんが今日はこの複雑な想いを分かってくれたのかと少し感動を覚えた直後に聞こえてきた「アイス」と言う続きの言葉に「え」と生返事をしてしまう。

まさか、と視線を自分の右手に映せばずっと持ちっぱなしだったアイスは見事に溶け、ゆっくりと俺さまの腕を伝っていた。もともとそこまで大きかった訳ではないアイスはもう申し訳程度にしか残っておらず、三口食べればなくなってしまうほど。つまりロイドくんのごめんはこのことに対しての謝罪であり決して舌を舐めたことではないということだ。まあロイドくんらしいっちゃ、らしいけれど。

ぷぷ、と心の中で笑って残っていたアイスを全て食べ、そのままベタベタな腕を気にすることなく清潔な白いシーツに体を沈め目を閉じる。本当に、疲れる毎日だ。毎日歩きまわって戦いまくって、珍しく宿に泊まれたと思ったら大好きなハニーにはおかしなことをされてしまって。はあ、と深く息を吐く。でもそれは決して後ろ向きからでた溜め息ではなく、寧ろ、そう。幸せだと思うから。

両腕を大きく広げてハニーの名前を呼べば、それに応えるように先程まで俺さまの舌に触れていたロイドくんの舌が腕に垂れているアイスを舐める。やっぱり犬みたいだと思いながら、俺さまはロイドくんの体をゆっくりと引き寄せた。

直し

なあ、今度はちゃんとキスしようぜ。そしてもっと、この日々を愛おしく想わせてくれよ。


thanks! joy


**Happy 610 Day**
ロイゼロの日おめでとう



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