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大前提として話をしよう。俺、ユーリ・ローウェルとゼロス・ワイルダーはれっきとした恋人だ。俺の片思いではない、両想いだ。膝枕をしてもらった事も抱き締めあった事も好きだと言われた事も確かにある、きちんと想い合っている関係。ここの所をしっかりと脳に焼き付けておいて欲しい。

これを分かっていればこの状況が不自然なのは簡単に理解出来る筈なのだ。何故俺は自ポケモン達に危険物のような目で見られているのだろう。これはどう考えてもおかしい、そうだろう。俺は唯普通にゼロスにキスをしようとしただけだ。俺が一方的に無理矢理しようとしたのならそれは最低の事だ、けれどそうじゃない。ゼロスは頬を赤く染めながらも確かに受け入れようとしていた。それでも俺とこいつがその行為をするのをゼロスと俺のポケモン達は断固阻止しようとしている。俺にゼロスをとられるとでも思っているのだろうか。

少しばかりロコンに噛み付かれた右足が痛い。本気で噛んではこなかったものの元々育てられている分威力が強く甘噛みだとしても結構な威力なのだ。その噛み付きの所為で見事にキスを邪魔されてしまった。こんなことならポケモン達に見つからない時にこっそりとしておくべきだったかもしれない。まさかこんな事をしてくるなんて予想外。さすがにゼロスも驚いて「ロコンちゃんってばやり過ぎだって」と少し叱っていた。ゼロスから言われた事にはいつも素直に従うロコンだが、今回はゼロスからの注意に反省した様子も見せずコーンと一鳴きした。「ロコンちゃんが反抗期だ」と慌てるゼロスを他所に鳴き声を聞きつけた俺達のポケモンが直ぐに集結し、結果、親衛隊の様に俺の前に立ちはだかりゼロスの周りを完全にガードしてしまった。どう言う絵図だこれは、洒落にならないだろう。

「えっと、皆どーしたのよ…?そんなに怒っちゃって、可愛い顔が台無しだぜ…?」

ゼロスも俺と同じく状況把握が出来ないらしく少し困り気味に、それでもいつもの様にポケモン達に話し掛ける。するとその言葉を聞いたロズレイドが、ぎゅっとゼロスの足にしがみ付き子供が駄々をこねる様に激しく首を左右に振った。余程の事が無い限りクールさを崩さないロズレイドがそんな行動をするのだからゼロスは余計に困惑した表情になっていく。もしかしたらゼロスはポケモン達が何故ここまで必死になっているのか分かっていないのかもしれない。それはそれで随分と罪な奴だ、こんなにも強く思われていると言うのに。お陰で恋人である俺はとんだ敵意を浴びせられる破目になった。自分の大切な奴が他の奴からも大切にされるのは思っていた以上に複雑なんだな。勉強になったよ。

さてどうしたものかと考えていると俺の方によたよたと寄ってくる影が一つ。ゼロスのポケモンで、最近進化したばかりのモココだ。もこもこした毛が超気持ち良いのと良くゼロスがこいつにくっついて悦に入っている。勿論他の奴等と同じくゼロスが大好きで堪らないらしいこいつは嫌な顔をせず寧ろ嬉しそうにその行為を受け止めている。だからこそさっきのロコンの様に噛み付かれるかもしれないと少し身構えるけれど、危なっかしいよたよたとした二足歩行で近付いてきたモココはメエーと愛らしい声を上げるばかりで何もしてこようとはしなかった。そう言えばこいつはメリープの時から大人しくて温和な性格だったっけな。多分、本当にゼロスを大切に想っているだけなのだろう。他のポケモン達も皆、俺が嫌いと言うよりも(自分のポケモンに嫌われていると言うのは結構な問題だが)ゼロスの事が好き過ぎて堪らないだけ、全てのものからこいつを守りたいと思っているだけ、それだけなのかもしれない。それは決して責められるものでは無い、だからこそ困るのだ。でもそれでも俺は引き下がれない。

「お前等がゼロスを大切にしてるのは分かった。でも意思の押し付けは良くないぜ?お前等がそうやってガードはってると、キスしたくてしょうがないそいつを困らせる事になるんだからな」

「な、何その自信有り気な台詞!べっつに俺さましたくて堪らない訳じゃないし?ユーリくんてば自意識過剰なんじゃねえのでひゃひゃひゃ」

顔を真っ赤にして何を強がっているんだか。喋ればその分だけ愛の告白をされてる気分だっての。まあ俺は大歓迎だけど。ふよふよ俺の周りを飛んでいたムウマが最近力加減をマスターしたらしいシャドーボールをぽんぽんとぶつけてくる。おいだから俺に技放ってくるのやめろ。これではキリが無いと、思いきってゼロスの方に手を差し出す。直ぐ意図に気付いたゼロスは自分の前に立つザングースに「ごめんね」と謝りながらやんわりと体を押し退け少し恥ずかしそうにしながらもしっかりと俺の手を取った。それを確認した俺が「お前等今晩食事抜きだからな!」と叫べば流石にびくりと体を固めるポケモン達。その隙に全速力でゼロスの家から出て当ても無く走り出す。まるで本当の悪役にでもなったかのような気分だなんて思っていると、直ぐにチルタリスに追いつかれて行く手を拒まれた。おいおいお前もなのかよ。こうなればと思い「チルタリス、しろいきり!」と普段のバトルと変わらない口調で言ってやれば条件反射の様に技を繰り出し、見事に辺りに霧が広がっていく。勿論その霧は俺達にとっても不利になるけれど走って切り抜けてしまえば良いだけの事、と、状況について行けず混乱しているゼロスの腕を引きまた走り出した。

適当に走って曲がって、ポケモン達が入ってこないだろうと踏んだのは有名な博士の研究所の裏。別に何度も話してる顔馴染みだから中に入れて貰うことも出来るだろうけれどあえてそれをしなかったのはこいつと、ゼロスと二人きりになりたかったからかもしれない。それに。

「…ユーリくんって案外子供だよな。キスしたいがためにここまでするなんて、まあうん、でも」

「お前も同じ気持ち、だろ?」

うん、とゼロスが返事をするよりも早くその唇を塞ぐ。初めてって訳でも無いのにやたらと心臓が煩いのは、きっとキスに至るまでの過程がいつもよりも長くて大変だったから。でもその分、この瞬間を愛おしく思う。「またポケモンちゃん達から反感買うぜ、もてもてで忙しいなあユーリくん」「はは、上等だぜ」そう皮肉を言って笑いあって、俺とゼロスはまたキスをする。


thanks! wizzy



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