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桜の花が咲いている中庭の光景を、見下ろす様に見ていた生徒に、声を掛ける者がいた。
「山口さん」
呼ばれた生徒は呼ばれた方へ視線を向ける。
「何だろうか?」
「放課後、風紀委員の会議無くなったから。」
「そうか。知らせてくれてありがとう。」
山口は知らせてくれた生徒に礼を告げると、外の風景に視線を戻した。
山口に伝言を伝えた人物の気配が遠ざからないので、ふと横を見ると、自分(山口)の隣に正木が側にいた。
「桜、見てたんだ。」
山口はじっと正木を見る。
正木は山口の視線に合わせる。
「他に、用件が…」
正木は山口から視線を外し、景色を見る。
「勉学と読書以外に山口さんが興味を持つものに興味を持っただけだから。」
「・・・。」
「桜の花、綺麗だね。」
山口も景色に視線を向ける。
「綺麗だとは思う。だか、自分は桜が苦手だ。」
「え?」
日本人でしかも女性の口から、桜が苦手と言う言葉があまりにも不釣り合いのような気がして正木は思わず口をついてそんな言葉が出た。
「坂口安吾の桜を扱った作品を知っているか?」
山口は正木を見ないまま、桜に向け話す。
「坂口安吾は知って居るけど。桜を扱った作品は残念ながら知らない。村上春樹の作品にある散歩道の記述は好きかな。」
「そうか。」
正木も景色視線を向ける。
「自分(山口)の桜のイメージは坂口安吾の作品の桜に近い、ただ其れだけだ。」
遠くを見て呟く様に、山口が口にすると山口はその場から離れた。
「もしかして、邪魔をしたかい?」
「いや、そろそろ教室に戻ろうと思うのだが、自分(山口)があんたといつまでも一緒に居たら。あんたを慕う連中に絡まれるのは御免だ。」
正木は軽く息を吐いた。


「一筋縄では行かないな。」



 







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