新一の手は暖かだった。平次がよく知る、あのマセたチビのものとは程遠い、血管の浮く骨張った白い手。細くて小さいあの手とは、似て非なる大きな手だった。その手が今、自分の服を一枚一枚脱がしている。

あの憧れの工藤新一が。

この自分の肌に。

その事実だけで、充分過ぎるほど身体が火照った。

着衣を脱がし全裸にすると、新一は平次の広い額にキスを落とし、それを合図に身体中に唇を降らせ始めた。

「ははは…くど…やめ…っあ、」

額から瞼、頬、唇と少しずつ降りていく。くすぐられているような気分になって身を捩るが、首筋に唇が落ちた途端、強がって笑うこともできなくなってしまった。

首筋を抜け、胸に手が這う。怯えたように尖った乳首をはみ、口先で弄ぶ。空いた左の蕾は物欲しそうに先端を赤く張らし、新一はそれを潰すように刺激を与えた。

「んあ、ふっ、う…」

右手の甲を噛み、必死に声を押し殺す。耳元へ熱い吐息を注がれ、ごくりと喉が鳴った。

「あ、あ、工藤、お前……」

布越しに触れる、焼けつくような熱――。間違いなかった。
工藤は欲情していた。鋭い眼光に射抜かれ、平次は縫いつけられたように動けなかった。こんなこと不条理だと嘆きながらも、酷く歓喜している自分にほとほと嫌気が差した。

「ん、あっ、あ、」

弛く立ち上がったモノを新一の手が扱く。優しく、ときに強く。平次は羞恥に染まった顔を覆った。

「オメー結構淫乱なんだな、まだ始めたばかりなのによ」

こんだけされれば充分や、あほ。なんて悪態を吐き、しかし実際に背を反らすほど勃ち上がっている自分のモノを見て、改めて恥ずかしい気持ちが高まった。

「あ、工藤、俺もう…っ」

絶頂を前に眉を潜める彼に深く口づけながら、先走りでぬめった窪みを撫でるようにして引っ掻いた。

「く、…ひあっ!」

視界が点滅する。ガタガタと身を震わせながら、新一の手の中に欲を吐き出した。

*****

部屋には荒い息だけが谺している。平次は、満ち足りたような心地よい感覚に浸っていた。微睡む瞼の裏、このまま意識を持っていかれても悪くない、とも考えていたが、何かを促すような瞳が平次を捉え、次いで汗ばんだ指が尾孔に当てがわれた。身が硬くなり、冷や汗が流れる。

「ま、待てや工藤!それだけは絶対…う、あぁ!!」

「言っただろ、責任取れって」

熱い息が首に注がれ、力が抜けた隙をついて人差し指を差し込む。急な刺激に再び立ち上がり始めたそれを掴んで擦ると、差し込んだ指が腸液に滴り始めた。

「やめ、言うてんねや、工藤っ…!」

肺が暴走し、引きつったような声で抵抗する。それを疎ましく思ったのか、指を三本に増やし、ぐちゃぐちゃと卑猥な音がするほど激しくかき混ぜた。

「ふっ、ア、や、工藤ッ」

恥ずかしいところを全て露にし、自分の手で酷く乱れている平次を見て、熱く張りつめた雄が更に熱を持つ。指への強い締め付けが、彼がバックバージンだったことを証明しているが、今の新一にはそんなことを考える暇など存在せず。

「悪い…やっぱ駄目だ」

「は、…あ?」

仰向けでぐったりしている身体から、首だけ起こしてみる。が、下からではその言葉の真意が読み取れなかった。

推理しようか、しかしこんなぼやけた頭では使い物にならないか、と自分なりに状況の打破を考えていたときだ。

「すまねえ…服部」

聞いてはいけない言葉を聞いてしまった気がした。背筋が凍ったのとほぼ同時に、熱いものが服部の身体を貫いた。

「ひうっ!」

喉が引きつり、自然と背が仰け反った。それを合図に目尻から止めどなく溢れる涙。

「あ、ひっ、熱っ、い、ふぁ」

それは下っ腹が融けるのではないかと錯覚するほどの熱さだった。痛みはないが、感じたことのない違和感が連鎖している。限界を感じた平次は、子供のように泣き喚き、抜いて欲しいと何度もせがんだ。

「分かってねえな服部」

何かを堪えたようなぎこちない笑みを浮かべ、新一の唇は未だ中止を宣う平次の唇を塞いだ。

「それ。煽ってるだけなんだぜ?」
「!?」
ベッドが大きく軋む。律動が再び始まったのだ。先刻より些か大きくなった一物が、平次の身を激しく揺さぶった。

「ふっ、あ、ああ、ん、ア、ァ」

掠れた声で名前を呼ぶことしかできない。揺さぶられるままにふと、平次は恐怖に駆られた。

「好きだ、服部っ」

底知れぬ不安の中、一筋の光が差した。

「はぁ、っ、俺も、俺も好きやっ、工藤!」
救われたいのか、道ずれにしたいのか――とにかく夢中で新一を抱き締める。同じくらいの体型なのに、酷く安心した気がした。



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