「なあ、エース」
狸寝入りを急にやめたから、エースの手が一瞬だけ堅くなった。

「な、なんだ……起きていたのか?」
「……あのさ、おれ」

仰向けの姿勢で寝ていたから、目を開ければすぐに目が合った。そして目が合ったら、エースは目を反らした。

「……やめろ」
「エースが、」
「やめろ!!」

エースは、おれが言おうとすることを分かっているようだった。

「何も……言うな…」

何も言わない?

何も言わなければ、いいのか?

「………」
「……ルフィ?」

何も言わないおれを、エースは怪訝な顔で覗き込んだ。

――その刹那、

ぐいっ
「!」

エースの一瞬の隙をついたのだ。綺麗な気持ちで近づいてきた頭の後ろ髪を掴み、汚い気持ちで一杯のおれに近づける。まるで木の葉のように落ちてきた麦わら帽子を被るときのようだった。

唇を離す。エースは石像みたいに固まってまま動かなかった。

「ちょっと――散歩してくる」

自分でもびっくりするくらい低い声でそう言い放ちおれは外に出た。

*****


白いタイル張りの坂を、俯きながら歩く。


(エースが、よごれちまった)

(おれのせいで。)


「……っ…」

泣きそうになったから、ぎゅっと目を閉じた。凄く申し訳なかった。さっきまでの自分が自分ではないような気がした。


――――でも、



(おれがよごしたから、よごれた…)


そう考えたら、なんだか身体の真ん中がくすぐったくて。むず痒くて。思わず笑ってしまった。


ふと水たまりを見つけた。じっと見つめていたら、怖くなって思わず肩を抱いた。

「…う…うゥ、…おォォォォ」

そのまま膝から崩れ落ちて、動物のような声で泣き叫んだ。

「ごめん、おれ、好きなんだ!」

タイルが濡れ、斑点をつくり出す。おれは土砂降りの中で笑いながら泣いた。涙が止まらなかった。

「お前、オカシくなったなあ」と陽気に笑う自分が、緩やかに消えていく。



『好きなんだよっ、エース!!!!』



届かないと知りながら、それでも届けと叫ぶおれは、

やっぱり、変なのか…?―――





――あ。赤い雨だ。きれいだなァー。



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