ひたっ…ひた…
なるべく音をたてずに歩く。
進むにつれて、引っ掻くような音は大きくなる。
襖の前に来て、隙間を覗いた。
心臓の鼓動が高鳴る。
そっと除いてみると、信じられない光景が広がっていた。
「…!」
(寺吉…!!)
寺吉(てらきち)は、武が愛玩していた黒い猫だ。
ネーミングセンスがどうであれ、親友だと言うほど可愛がっていた猫だった。
寺吉が、何者かに食べられていた。
後ろ姿しか見えないが、あれは多分…
――宿主だ…―――
(…!)
「ゔ……ぅえっ…」
刹那、凄まじい吐き気に襲われた。
ビチャッ…ボタタッ…
嘔吐物が飛び散り、口内に酸めいた味が広がる。
そのとき…
ス…
背後で、襖の開く音がした。
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