ひたっ…ひた…

なるべく音をたてずに歩く。

進むにつれて、引っ掻くような音は大きくなる。

襖の前に来て、隙間を覗いた。

心臓の鼓動が高鳴る。


そっと除いてみると、信じられない光景が広がっていた。


「…!」


(寺吉…!!)



寺吉(てらきち)は、武が愛玩していた黒い猫だ。


ネーミングセンスがどうであれ、親友だと言うほど可愛がっていた猫だった。


寺吉が、何者かに食べられていた。

後ろ姿しか見えないが、あれは多分…




――宿主だ…―――




(…!)

「ゔ……ぅえっ…」


刹那、凄まじい吐き気に襲われた。


ビチャッ…ボタタッ…


嘔吐物が飛び散り、口内に酸めいた味が広がる。


そのとき…



ス…



背後で、襖の開く音がした。


- 73 -





Top

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
back