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『僕は一体何がしたいのだろう』
廊下を歩いているとき、そんな疑問が頭をよぎった。
左隣で僕の歩くスピードに合わせようと必死になっている山本武を、横目で睨み付けながら考えてみた。が、その答えは応接室に着いてからも何一つとして出てくることはなかった。―――もっとも、出てこなかったのは自分に都合のいい答えだが。それ以外の解を僕が認めるはずがない。
客人用のソファーという名目の私用ソファーに腰掛け、沈んだ拍子に足を組む。
テーブルを挟んだ向こう側で、忙しなく頭を働かせている馬鹿がいたので、悩みの根源ごと捻り潰してやることにした。
「僕が、何か企んでるとでも考えているの?」
「えッ!?あ、いや、その……」
やはり図星だ、馬ァ鹿。
だけど正しいと言えば正しいと言えなくもない。何故なら、僕が何かしら企んでいるのは紛れもない事実だからだ。
組んでいた足を床に戻し、すっくと立ち上がる。そのまま優雅にかつ柔らかな物腰で山本の元へ歩み寄り、足元へふわりと片膝を落とした。
「…え?」
ここまでして何も察していないのであろうこの天然は、突然真顔で迫ってきた僕に対し、明らかに困惑の色を見せていた。
「……企んでないと言えば嘘になる」
ぽろ、と柔らかい吐息で言葉を紡ぐ。白い指で淡い褐色の肌を捉え、引き寄せる。間近にある、驚きに見開かれた瞳を見つめてから額に口づけた。突然のことに、山本は前屈みのまま硬直している。
「御無沙汰だっただろう?こういうの」
熱っぽい視線で、両腕で首にぶら下がるようにしながら顔を近づける。そしてこの純粋な瞳が、これからどんな風に変わるのかを想像して微笑んだ。
「ヒバリ……」
そら、変わった。
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「っ、ふ、ぁ…」
「ヒバリ……」
一糸纏わぬ肌が、密着している。
粘膜を通して深く、深く。
「ッ、ん、あ、アァ!」
「ぁ、ア、ヒバリ、ヒバリッ」
激しく突き上げられ、快楽のままに喚く。
獣のような目――追い詰められた目を見つめて抱きしめる腕に力を込めれば、彼の背中が震えた。
「なぁ、ヒバ、リ?」
行為を続けたまま、山本が僕に訊ねる。目だけで先を促すと話を進めた。
「なんで、今日、こんな積極的――あ、ァ、ちょっ、」
僕が尻に力を入れたことで、先刻まで猛々しく張りつめていた怒張が破裂するように達した。僕のナカへ熱いものが流れ込む。それを感じて、自身も達してしまった。
「は、ッ卑怯、だ、はあ――」
熱い息をうなじにかけながら、山本は小さく異議を唱える。うなじに意識を集中させたまま、僕は本能のままに目を閉じた。
今日は、始めからおかしかったんだ。
あまりにも、あまりにも揃い過ぎた。
空に浮かんで常なく移動するアレも
音をたてて降る子供のようなソレも
強かで優しい君の頬を伝う温かなコレも
そして、
僕らの奥底に秘めたこの感情でさえも。
不純。
(ここまで沈んでしまったから)
(もう、後戻りはできない)
END
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