もう空は、闇に染まり切ろうとしている。
夕闇の静けさの中、微かに虫の鳴き声が聞こえ始めていた。
「はーい!今日はハルと京子ちゃん特製のカレーライスです!!」
先程まで落ち込んでいたのも束の間、今ではすっかりご機嫌な様子のハル。彼女の元気な声が、人工と自然で入り乱れたこの奇妙な大地に響き渡る。
「甘口から激辛まで一杯作ったから、皆たくさんおかわりしてね!」
ハルの声を、笹川了平の妹…笹川京子が繋げた。ちなみに彼女は、綱吉が思いを寄せる女の子である。
「いただきまーす!!」
声高らかに、夕食の合図が響き渡った。
カチャカチャと、金属の擦れる音が聞こえる。皆、各々のテント前で食事を取っていた。
綱吉&獄寺&女子
「ん、美味しい!!」
「本当ですか!?ハル嬉しいですー!!」
ぎゅう…
「ぐ…ハル、苦し…」
「さ、触んな馬鹿女!!十代目が苦しんでいらっしゃるだろうが!!」
ぎゅううっ
「ッ獄……死ぬ…」
「なっ…引っ張んないでくださいよ!!」
「そっちこそ!!」
ギチギチギチ…
「助け…京……」
「ウフフ、三人共本当に仲良しね!」
「……(泣)」
綱吉の想いは、誰にも伝わることはなかった。
了平&ランボ&クローム
「ぐす…がま…ん」
「…大丈夫?」
リボーンに挑み、毎度ながら撃沈したランボ。クロームは消毒液を綿に浸し、ぺたぺたと同じ動作を繰り返す。
「うひゃ!くすぐったいんだもんね!」
「駄目…まだ動いちゃ…」
「極限そうだぞ!!」
「ぐひひーもう大丈夫だもんねー!!」
そう言いながら、ランボは元気よく森の中へ消えていった。
「…あの子…強い」
血色の良い頬に汗をにじませ、華奢で艶めく唇を噛み締める。
「そうだな。極限強いな!俺も負けられないぞぉぉ!!!!」
拳を強く握りしめ、獣の如く猛る了平。声こそ響きはしなかったものの、近くの茂みから、数羽の鳥がバサバサと夜の闇へ飛び去った。
(強く…ならなきゃ)
了平の傍らでクロームは、片手に主の三叉槍を握り締め、スプーンを動かす手を速めるのだった。
リボーン&山本
「なあ小僧、こいつどうすれば良いんだ?」
「とりあえず、一晩だけ面倒見たらどうだ?」
「ははっ!そうだな!!」
夕食を食べ終えた山本とリボーン。そんな彼らの元へ、森の中から怪我をした子犬が出てきたのであった。
慣れない手つきながら懸命に包帯を巻く姿に惹かれたのか、子犬はかなりと言って良いほど山本に懐いてしまった。
「美味いか、ヒー?俺の牛乳は」
キャンキャン!!
「そうか美味いかーvv」
「…下ネタか?…名前も気色悪ぃからやめろ…そしてお前ホントネーミングセンスないな…」
「えーだって俺にベッタリなヒバリとか可愛くね!?でも被るから、ヒー。ヒーちゃん!!…あーでもそしたらもうヒバリじゃねーな」
山本の言葉に、リボーンはもう何も言わなかった。
「…あ、そうだ。明日の修行は何だ?」
「ノーコメントだ」
「んだよー、じゃあ少しだけ!な?」
「ノーコメントだ」
二人は修行や夕食などの他愛もない(というかなさ過ぎる)話をしていた。
「なあ、ヒバリは?」
ポリポリと頬を掻き、少し躊躇った素振りをしながら、山本は尋ねた。
「…そろそろ到着する頃だと思うぞ」
リボーンは山本の顔をチラリと見た後、からかう様な笑みを浮かべて答えた。リボーンの対応に、山本は気まずそうに目を泳がせる。
「ま、今夜はおあずけなんじゃねーか?」
「あー…」
無意識に視線を落とす。
別に膝の上のこいつが悪いと言う訳ではないけど…
「やっぱおあずけはキツいのなー」能天気ぶって作り笑いを浮かべるが、リボーンは帽子の鍔をちょい、と指で押し下げ、顔に影を作った、
「違うな。それを見て本当にキツいのは…」
「何してるの」
リボーンが何か言おうとしたとき、山本の背後から声がした。
「…ッ!、ヒバリ!?」
勢い良く振り向いた山本とは裏腹に、リボーンは全く動かなかった。まるで、最初から会いに来ると分かっていたかのように。
「ちゃおっス」
「やあ、赤ん坊」
大きな石に両足を抱えて座る山本を、今の今まで見下すように微笑した雲雀恭弥。だがリボーンと話すときには、見違えるような笑みを浮かべた。その度に、山本は考えてしまう。
『いつか、こんな風に俺に笑いかけてくれる日が来るのだろうか』と。
だが答えは見つかるはずもなく、常識から考えても、自分に味方するような答えは出てくることはなかった。- 114 -
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