「では…撮りますよ」

ガシャン、とカメラの起動音。

空気が一気に重くなる。

ごくん、と生唾を飲み込む山本。

それは、正確にはカメラでの緊張ではなかった。

そう…思いを寄せる者と触れ合うことによる極度の感情。

焦燥と呼ぶには甘過ぎて、歓喜と呼ぶには苦すぎる。

その複雑な何かが、まさに今、山本を苦しませてならないのだった。

「ちょっと」

「うおぁい!!?」

突然の雲雀の問いに、山本は過剰な反応を見せる。

「気持ち悪…何その声」

「あ、あはは…」

言えない。

手を意識していたなんて。

「何ボーッとしてんのさ。ほら、撮るよ」

「お、おう」

ジー…

起動音に続いて、カメラに赤いライトが灯る。

「3、2、1…」

「行くよ」


草壁の合図と共に、雲雀が足を踏み出した。

(う、わ…!!)
身体が宙に舞い、足が勝手に動くような錯覚を覚える。

みーどりたなーびくー…

草壁が、後ろ手にラジカセのスイッチを押す。待っていました、とばかりに並中校歌が流れ始めた。


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