「では…撮りますよ」
ガシャン、とカメラの起動音。
空気が一気に重くなる。
ごくん、と生唾を飲み込む山本。
それは、正確にはカメラでの緊張ではなかった。
そう…思いを寄せる者と触れ合うことによる極度の感情。
焦燥と呼ぶには甘過ぎて、歓喜と呼ぶには苦すぎる。
その複雑な何かが、まさに今、山本を苦しませてならないのだった。
「ちょっと」
「うおぁい!!?」
突然の雲雀の問いに、山本は過剰な反応を見せる。
「気持ち悪…何その声」
「あ、あはは…」
言えない。
手を意識していたなんて。
「何ボーッとしてんのさ。ほら、撮るよ」
「お、おう」
ジー…
起動音に続いて、カメラに赤いライトが灯る。
「3、2、1…」
「行くよ」
草壁の合図と共に、雲雀が足を踏み出した。
(う、わ…!!)
身体が宙に舞い、足が勝手に動くような錯覚を覚える。
みーどりたなーびくー…
草壁が、後ろ手にラジカセのスイッチを押す。待っていました、とばかりに並中校歌が流れ始めた。- 96 -
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