「雨、」 一人ぽつりとつぶやいた声は雨音に消え、周りに誰もいなかったから尚更自分にしか聞こえなかった。 昇降口には誰もいない、何せ台風がやってくるとのことだから部活は休止、生徒は授業が終わったらすぐに寮に戻ること、との御達示が理事長から出たのだ。 だけど自分だけは生徒会でどうしても今日中に片付けなければならない案件があって、先生に無理を言って生徒会室に残っていた。 今日の生徒会室には僕しかいなかったから驚くほど集中できて予定より早く終わらせることができた。 僕がそんな回想に浸っている間も雨は止むどころか弱まることを知らず降り続けている。 五月雨と呼ぶにはもう遅く、時雨と言うには情緒が足りない。 今日の雨にはてんで何も感じない。 (やはり、台風による雨は嫌いですね) ただ降っていると形容するに相応しい雨。加減を知らない子供のように、ただ連続的に降り続ける雨。それはまるで感情を押さえきれない自分のようで。 それを思った瞬間、さっきまで鎮まっていた気持ちが沸々と高まり始めた。 彼女は今頃寮の自室で部活の時間をなくした雨に憂いているのだろうか。喪失に憂いている彼女。 ……ダメだ。 (…ピアノでも弾いてから帰りましょうか) 寮が近くにあるとはいえ夕方のこの微妙な時間のこの雨だ、さすがに先生もまだ帰っていないだろう。加えて雨が少し弱まってから帰りたいといえばきっと鍵を貸してくれるだろう。 (仕方のないことだ。これは僕自身が招いたこと。幾ら予想外とはいえその責任を他人に押し付けるなどお門違いだ) 高まる気持ちとは反比例してだんだんと沈んでいく心。 全ては自業自得といくら言い聞かせても留まることなく落ちていく。 彼女のことを想うようになってから、自分のとある感情に気付いた。 彼女の不幸を喜ぶ自分。 初めは罪悪感に苛まれ、彼女を見ることすらできずにいた。 けれどだんだんと感情に流されている自分に気付く。彼女の泣きそうな顔を見る度に無意識の内ににやりと不敵な笑みが零れていた。 こんな自分に幾度嘆いただろう、そして彼女に何度懺悔を繰り返しただろう。 それでも自分の感情は止まらなかった。 自分はただ、不幸に悩まされ悲しんでいる彼女を救う自分に酔いしれているだけだ。 彼女の不幸を望んでいるわけではない。そんなことは決してない。 けれど…。 もう戻れないのかもしれない。一度落ちたら簡単には戻ってこれないのかもしれない。 きっと僕を救えるのは、彼女しかいないのだろう。苦しめるだけになるだろうが、それで僕は救われる。 (…僕は何を考えているんでしょうか) 雨が降りしきる外から目を逸らし、僕は音楽室へと足を運ぶ。 振り返るみたいに感情が巻き戻ってしまえばいいのに。そうすれば、誰も苦しくないのに。 苦しめてもいいですか? (望んでいるわけじゃない、自分の本能がそう叫んでいるだけだ) 09/15 Hayato Aozora HAPPY BIRTHDAY! 2011/09/25 |