8-3 | ナノ








二人の想いのベクトルがお互いの方向を向いてるから私たちは成り立ってて、だけど遠い未来近い将来、もし勘違いとか思い違いとかで違う方向にいってしまったら、と考えると夜も眠れないくらい怖くなる。想い合ってるはずなのに合わせることができないだなんて…。
そんなことを考えていたら何だかものすごく不安定になってしまって、それを彼に直接言ってみると、彼らしい答えが返ってきた。


「今俺達はそんな事態になってないんだから、そんなこと考える必要なんてないんだ。大切なのはもし、じゃなくて今、だろ?」


将来のために今を生きることが大切なんだ、今の俺達みたいにな!
そう言ってにかっと太陽のような笑顔を向けてくれる。私もつられて笑うと、恥ずかしいのか、目一杯の笑顔が少しはにかむ感じになった。

あの日約束した私たちは先生と生徒で毎日を過ごしている。
その中の二人になる瞬間、本当に瞬間と呼んでいいほどの僅かな時間であるけれど、その時間はいつも一緒にいるのに未だにそんな表情を度々見せてくれる彼をやっぱり愛おしいと思う。


「ねえ、先生、」

「ん?なんだー?」

「それなら私たちは何もなくなっちゃいますね」

「え?」


「だって向き合ってる同じスカラーのベクトルを足したらゼロになるでしょう?」


そう私が得意げな顔で言ったら先生は、


「よくできました。さすが俺の生徒だな!」


と私の真似をするかのように得意げな顔で私の頭を撫でてくれた。





これからの長い時、そう、生涯を共に歩むかもしれないのだから、今というそれに比べれば一瞬と言える時間くらい一緒にいなくたって全然平気、うん、全然平気だよ。








だって私たちは向き合ってるから
(だけどもう少し、あともう少しだけ、)
(そばにいてもいいですか?)





08/11 Naoshi Haruki
HAPPY BIRTHDAY!



2011/09/23