dsz1 | ナノ



百合,現パロ(同棲中),マルリン要素あり





しとしと。
せっかくの休日なのに、予報にもない雨が降ってきた。
いつもならば慌ててベランダに出るボクだが、今日はいつもと違った。

「あ、雨。」

「雨、ですね。」

黙々と読書を続けるゼルダ。

「…………。」

「…………。」

「ゼルダ、」

「はい?」

「洗濯物はいいのか?」

「…え?洗濯も…の……、あーっ!!」

読んでいた本を机に置き、騒々しくベランダへ出ていく、ボクの彼女。

(大丈夫だろうか…。やはり手伝ったほうがいいのでは……いや、彼女が自分でやると言った手前、ボクが手を出したら怒るからな…)

実を言うと、いつもはシークが家事全般をやっているのだが、ゼルダがいきなり「いつもやってもらってばかりなので、今日はわたしがやります!」と言い始めたため、今日一日限定でシークの代わりにゼルダが家事を担当することになったのだった。

(とはいえ、朝食だって、あれは結局ボクが作ったようなものだったし…)

朝起きられたのは良かったものの、朝食を作ったことのないゼルダは、何を作ったらいいかまったくわからず、シークの指導でやっとできたのだった。

(フライパンを持って、「これは盾ではないのですか?」と言い始めた時は本当に驚いたな…)

彼女の天然っぷりは今日だけのことではなかった。
あの青と緑のカップルと街へ遊びに行った時も、リンクとボクがふざけてマルスの存在を消していたら、「こ、この人はマルスではないのですか?!それでは本当のマルスは一体どこに…!?まさか、誘拐でもされたのですか?!」と騒ぎ始め、誘拐という言葉に反応した周りの人々が警察を呼んでしまった、ということがあった。

(あの時は全責任をマルスに押し付けて、私たちはとんずらしたのだがな)

まあ、マルスのその後はさておき、とにかく、あの子の天然っぷりは尋常ではないのだ。

「…シーク、」

回想をしていたら、彼女のか細い声が聞こえた。

「どうした、ゼル…ダ……!?」

彼女の方を見ると、体はそんなに濡れていないにもかかわらず、頬が濡れていた――――否、泣いていたのだ。

「ゼ、ゼルダ!?」

「ごめんなさい、シーク…。朝食は作れない、洗濯も満足にできない…。私は、何もできませんでした…。家事ってこんなにも大変なのですね…。」

静かに涙を流しながら、懸命に謝る姿は、こんなことを言ってしまったら彼女はきっと怒るだろうが、とても綺麗だった。

(…ああ、もう、なんでこんなに可愛いんだ…!)

「大丈夫、泣くな。人には向き不向きがある。」

少しだけ雨に濡れてしまったのか、少し冷たくなった彼女を自分のほうへ引き寄せて抱き締める。

「…シーク。」

「ほら、雨に濡れてしまっている。このままだと風邪を引くぞ?シャワーを浴びてくるといい。」

「…はい。」

私の腕から離れたゼルダは、少ししょんぼりしながら、脱衣所へ向かった。
彼女を見送り、シークはベランダを見た。

(洗濯物は…全部入れたのか…。だが雨に濡れてしまっているのなら洗い直すか。)

そう思い、ゼルダが取り込んだ洗濯物を籠のなかに戻し、振り返ったところ、てっきり既に脱衣所に行ったと思っていたゼルダがそこにいた。

「まだ入ってなかったのか?このままだと本当に風邪を…」

「あの…シーク…」

少し恥じらいながら、またお馴染みのか細い声でボクの名を呼んだ彼女は、そのままの調子で、

「一緒に…入りませんか?」

と言った。

「………へ?」

ボクは彼女が言った言葉があまりにも唐突すぎて、尚且つ違う方向に思考が飛んでいったので、間抜けな返答をしてしまった。

「いや、あの、その…迷惑をかけてしまったし、背中でも流して労をねぎらおうかな…と……。まあ、少し時間は早いですけど…。」

もごもごと口籠もるゼルダ。

(…わかってないよな、絶対。うん、そういうことは考えない純粋な子なんだ、彼女は。)

シークは違う意味でドキドキしていた心を押し殺し、
「それでは、お言葉に甘えようかな。」
と言った。

「よかった…断られるかと…」

彼女は安堵した声でそう呟いた。

「どうしてだ?」

「だって私、最近ドジを踏んでばかりでシークに迷惑をかけっぱなしにしていたので…その、嫌われてしまったのではないかと…」

ああ、もう、だから。

(なんでそんなに可愛いんだ…)

「だから、別れる…なんて言われたらどうしようかと…、っ!」

もう一度、彼女の体を抱き締める。

「ボクがゼルダを嫌いになることなんてない。まして別れることなんてなおさらな。そうだな…あえて言うなら…ボクがゼルダに嫌われたら、そうなりそうだがな。」

「そんな!私がシークのことを嫌いになるわけがありません!」

「そうか。」

彼女の必死の訴えに、思わず顔がにやけそうになった。

「それじゃあ…一緒に、入るか。」

にやけ顔を押さえながら、ゼルダに笑顔で言葉を発する。

「はい…!」



彼女の無邪気な笑顔を見ると、自然に幸せな気持ちになる。
彼女の泣き顔も美しいが、やはり笑っている顔のほうがいい。
彼女がボクの隣にいないなんて、耐えられない。

(…結構、ゼルダよりボクのほうが彼女に依存しているのかもしれない…否、ある意味、中毒か…)

シークはそう思いながらゼルダにわからないように自嘲気味に笑い、ゼルダとともに脱衣所へと向かった。



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某氏リク「姫に振り回されるシーク/しっかり×天然もえ」



前サイトから引用
2010/03/06

多少改変
2011/01/06