2-2r | ナノ








「うぬぬ…」


熱い熱い。頭が顔が全身が熱くて、怠い。


「おでこあっついね。風邪かなあ」


ソファに仰け反って座る俺の隣まで歩いてきた月子が書類を抱えたまま、俺の額に手をあてて考えている。
あ、月子の手、冷たくて気持ちいい。


「昨日髪の毛乾かさないで寝たからかも…」

「また実験に夢中になってたの?」

「うぬ…風呂入ってたら急にアイディアが思い浮かんだんだ!それで急いでお風呂から出て実験してたらもう夜遅くなってて…」

「翼くんらしいな」


でも寒い日も多くなってきてるんだから、あんまり無理しちゃダメだよ?
くすっと少し笑ってから、俺をまるで子供と接するかのように軽く叱って、自分の席へと歩いて戻っていった。と思ったら、書類を置いて俺のほうに戻ってきた。


「保健室、行こう?」

「う、ん」


そっと差し延べられた手に吸い込まれるように俺は、自分の手を重ねていた。











「また星月先生いない」


保健室の扉を軽くノックして、失礼します、とお決まりの言葉をはいてから、ガラッと扉を開けて、部屋を見渡す。そしてちょっと怒ったような口調で言葉を発すると、俺の手を引きながらベッドへと向かった。


「星月せん、……いない」


シャッとカーテンを引いて、からっぽな(見なくても何となくわかる)中を確認したのだろう、今度は呆れたような口調の後に、はあ、と溜め息が一つ。またどこかでサボっているのだろうか、それとも理事長の仕事を全うしているのだろうか…。
だけど、そんなことは今の俺にはどうでもいい。頭がぼーっとして、思考が働かない。手を掴まれている感覚さえ、あやふやになってきた。…これはやばいかも。


「はい、翼くん。ベッドに横になってて。薬とってくるから」


俺から離れようとする月子をどうしても止めたくて、思わず腕を掴んでしまった。


「翼、くん?」

「…ぁ……」


しまった。反射的に腕を動かすなんて。

彼女が離れていく、寂しい、とか。まだそんなことを思っているなんて。彼女のおかげでもうとっくに治っていると思ったその癖は、長年のものだからだろうか、まだ治っていなかった。


「どうかした?」

「別に、」


何でもない、と続けて発した言葉はちゃんと届いたのか心配になるくらい小さく発せられた。
それと同時に未練がましくゆっくりと手を離す。


「すぐ戻ってくるよ」


だからベッドに入って待ってて。
察したのだろうか、自分を安心させてくれるような笑みを軽く浮かべ、俺がベッドに入るのを見届けてから、言葉通り薬品棚からベッドまで一分も満たない時間で帰ってきた。


「はい」

「あり、がとう」


渡された市販の解熱剤の箱を開け、適量を取り出す。月子が持ってきてくれた水を片手に、2粒を口に入れたと同時に水で流し入れた。


「ひとまずこれで安心かな」


一仕事終わって腰に手を当てて、ふぅ、と一息ついた月子は、ベッドの空いているスペースに座った。

ふと二人の距離が近くなる。さっき腕を掴んでしまったときの欲求が思い出されて、この何とも言えない距離感が何だか急に寂しくなった。


「…ぎゅーってしてもいいか?そしたら俺元気出るかも」

「えっ?」


いきなりの言葉に顔を赤くした月子はかわいい。そんな彼女にもう一押し。


「月子が傍にいれば、俺、どんな病気でもすぐに治るぞ」


だから抱きしめて?
いつもなら俺のほうが余裕綽々で、一般的に恥ずかしい言葉だとしてもそれがどんな言葉だって平気で言ってのけるのに、今日は弱ってるせいか、その元気がなくて、自分で言ってから一気に恥ずかしくなった。自分から抱きつく(近付く)にも物理的に苦しい体勢になることを考慮したことももちろんだが、やっぱり元気がなくて、彼女に乞った。きっと今までにあまり見せたことのない、はにかんだ情けない笑顔を彼女に向けていただろう。
だけどそんなことはどうでもいい。
俺のその言葉で俯いて顔を真っ赤にしながら、自分にゆっくりと近付いてくる彼女がいれば、俺は他に何もいらないのだから。







熱さに浮されたらきみしかみえない
(ぎゅっと抱きしめてくれた月子を俺もぎゅっと抱きしめ返す)
(二人して赤くなって、これじゃあどっちに熱があるのかわからないや)





くーにゃ様へ
request thanks!


2011/09/06