何でもできちゃうなんて、知らなかった。 「ちょっと待ってて、もう少しでできるからさ」 そう言って手を動かすと、持っていたフライパンから零れることなく華麗に舞うご飯たち。 料理を作るのがうまいなんて、郁が学園にいたときはそんなの知らなかった。……まあそのときは色々あってそれどころじゃなかったけど。でもあの郁なら料理くらい簡単にできそうか……。 あーあ、これじゃあ彼女失格だよなぁ……。 「…彼女失格とか思ってるでしょ」 「…………」 「そんなこと思わなくていいのに」 郁は料理を作り終わったみたいで両手にお皿を持って私が座っているテーブルに近づいてきた。 「はい。あとサラダとスープも持ってくるね」 「…うん」 こと、と机に敷かれたランチョンマットに置かれたお皿には、出来立ての炒飯が乗っている。そのご飯粒たちは固まることなくぱらぱらとしていた。 ……私が前に作ったときはこんな感じじゃなかったのに。 「どうしてこんなにも違うんだろう…」 ご飯粒たちを見つめながらぼやく。 女である私には女子力がないのに、男である郁には女子力があるのはどうしてだろうか…。 一人暮らしというのはとても大きな違いだけど、でも、なんだかなあ…。 理不尽な気がしてしょうがない。 「簡単なものでごめんね。2、3日前くらいから今日食べに来るって決まってたら、材料とか揃えてもっとちゃんとしたもの作れたんだろうけど。まあそれはまた今度ね。…さ、食べようか」 テーブルの上に並べられた料理たちを見て、ほう、と一つ、息を吐く。 これだけで十分なのに、もっとすごいのを作れるのかな。 私の前に座って、スプーンを片手に私に笑顔をくれる郁に私は笑顔を返すことができない。 やだ、こんなことで泣きそうになるなんて。 「大丈夫、そのうちできるようになるって。僕だって最初は何もできなかったさ。だけど一人暮らししてたら、いやでも作らなきゃいけないから。あと慣れも必要。何度も失敗を繰り返して自分なりのやり方を見つけること。それが大事なことだよ?」 わかったかな?僕の大事な子猫ちゃん? そう言って悪戯な笑みを浮かべる郁に、子猫じゃないよ、とむくれながら言うと、じゃあ何?と意地悪そうに聞いてくる。 彼女、じゃないの?はい、よくできました。 軽く掠めるように頭を撫でられて、毎度の如く思う。 やっぱ、郁のほうが一枚上手なんだよなあ。 「いただきます」 「…いただきます」 スプーンに乗せてそっと口に運んだ炒飯の味付けが私の好みの味の濃さで、何だか嬉しくて、悔しくて、でも嬉しくて、やっぱりちょっと泣けた。 調整できる優しさを習得したいの (だって想ってるって、すごくよく伝わるでしょう?) 夢月那由紀様へ request thanks! 2011/08/31 |