人に聡いあの人のことだからきっと気付いているのだろう。 そしてポジティブシンキングを発動すると…想い合ってるんじゃないかって。そう確信している私がいる。 ふと目線が合ったときににかっと清々しいほどの笑顔をくれたり、不細工だのなんだの言ってくるけどなんだかんだ言って私のことを心配してくれたり。 と、それは学校に一人しかいない女の子に対してだからの行為で勘違いか自意識過剰じゃないのか?って言われちゃうかもしれないけど、そうかもしれないけど、私が思うに、恐らく、気にかけられている、んだと思う。 …いや、気にかけてなんかいないかもしれない気付いていないかもしれない。 自分の思うことに絶対なんてないのかもしれない。 いや、絶対なんてありえない。 はあ、と溜め息を一つ。 こうやって気にかけられているられていないの思考を繰り返し、いつまで経っても堂々巡りで解決しない。 ……ああ、辛いなあ。 「夜久ー、溜め息つくと幸せ逃げるぞー」 弓道場の隅で弓の手入れをしていた私に、犬飼くんが話し掛けてきた。 誰のせいだと思ってんのよ、誰の。 「わかってる!」 「おお、なんか今日は攻撃的だなあ」 思わずやつあたり…じゃないか当の本人に向かって、だもんね。 「で、なんか悩み事か?」 「え」 悩み事、だけど…こんなこと、本人に直接聞いたらある意味万事解決だけど、そんな本人の前で聞けるわけがない。 「え、っと…」 「ああ、別に無理して聞き出そうなんて思ってねぇから」 安心しろ。 そう言って向こうへ行こうとした犬飼くんの背中が何だか遠くに見えて、何だか寂しくなって、 「犬飼くんは、」 「あ?」 「す、好きな人いないの?」 「あー、いるなー」 「え」 勢いで聞いた質問の内容に我ながらびっくりしたけど、それよりもまさかこんなすぐに返答があるとは思わなくて、いや返答があったことそれ自体にある意味びっくりしてるんだけど。 「ど、どんな子?」 好奇心ってなんて怖いのだろう。勢いが留まることを知らない。 「うーん、一言で言えばかわいい子、だなー」 「かわいい、子…」 かわいい子か……じゃあ私じゃないな……。 と考えたところで彼の好きな人が私であればいいのに、と思っていたことに気付く。それこそ自意識過剰、あんまりよくない。 「夜久?」 「…………」 何か言わなきゃ何か言わなきゃと頭の中で思うけど、何にも言葉が出て来なくて。咄嗟に思い付いた一言は、 「私、応援するよ…!」 「は」 犬飼くんはぽかんと口を開けている。 あれ、私変なこと言った…? いやでも部活仲間の好きな人を知ってしまったんだから応援するのは当たり前だよね…。 ……仲間、か……。 「…ありがとな」 そう言ってさっきの呆けた顔はどこへやら、私に笑顔を向けた犬飼くんの表情はいつも私に向けてくれるものではなくて、私の知り得ない感情を表しているかのように形容し難い複雑な笑顔だった。 それからというものの。 「犬飼くん、宮地くんが呼んでるよ」 「おーありがとなー」 ただの、普通の、いつもの会話。 私たちはそれしかしなくなっていた。からかいもしない。なんだか犬飼くんが遠くに行ってしまったかのようで、寂しい。 今更ながら好きな人が誰なのかを聞くことを忘れていることに気付く。 …そっか、誰かもわからないのに応援するだなんて言って…だから変な顔してたのかなあ。でもなんでいつものようにからかってこないんだろう。別にからかってほしいわけじゃないけど、でも、やっぱり。 「犬飼くん…!」 「あ?」 「私、変なことしたかな…?」 「…は?」 「だって、なんか態度がそっけないもん…」 「……それは、別に…」 特にそういうつもりはない。 そう犬飼くんは言うけれど、絶対に違う。これだけは確実に言える。 「嘘。私のこと、避けてるでしょう?」 もう、何でもよくなってきた。とにかくこの状況を打開したくて、後先考えずに言葉を発してしまった。 「私、すごく気になってたんだよ。いつのまにか犬飼くんが声をかけてきてくれなくなって、それはどうしてかなって考えて、何度も考えてもあの日しか思い浮かばなくて。あの日、私が犬飼くんの好きな人も知らないで応援するとか勝手なこと言ったから怒ってるんでしょう?」 「おま、……はあ」 私が勇気を振り絞って言ったのに溜め息で返されて私は少しむっとした。 「…なんで溜め息なんかつくの」 「いや……とりあえず、こっち来い」 「え」 ぐいっと右手を強引に掴まれて弓道場の外へ引っ張られていく。 「宮地くん呼んでたけど…っ」 「あー、あとだあと、」 説教ならいくらでも聞いてやるよ。 にかっといたずらっ子のように笑ったその笑顔を、やはり好きだと思った。 「とりあえず、お前は勘違いをしている」 「へ」 弓道場の外に連れて来られた私は思いもよらぬ返答にとても間抜けな反応をしてしまった。 「まず俺はそんなことで怒ってるわけじゃないし、そもそも怒ってなんかいない」 はあ、と一息ついて、彼が発した言葉は、 「お前もいい加減、俺がお前のことを好きだって気付け」 あと自分が俺のことを好きだってこと、他から見るとわかりやすく顔に出てるってことを理解しろ。 「な、っ」 私の勘違いでも自意識過剰でもなかったんだ。やだ、すごく嬉しい。 顔が一気に赤くなっていく。熱い、熱い。 「顔真っ赤」 そういう犬飼くんも自分で言ったくせに赤くなってるしはにかんでるし。 「おあいこ、でしょ?」 「だな」 二人して笑って、とっても幸せで。 ああ、もうどうでもいいや。 さっきまでのすれ違いやら問答はどこ吹く風、私たちは太陽に照らされて二人で笑い合っていた。 言葉一つで (幸せにも不幸にもなれるのは、貴方の言葉だからです) 利賀愁様へ request thanks! 2011/08/21 |