※オリキャラの第三者視点 「お前、最近どうなんだ」 「は」 タバコをふかしながら目の前にいる生徒に話しかける。 本当なら研究室は禁煙だが、そんなのは気にしない。うちの研究室は危険物質を取り扱ってるわけではないからだ。それに俺はきちんと携帯灰皿持ってるからな、問題ない。 「だから、最近どうなんだと聞いてるんだ」 「最近どうって…」 何のことだかさっぱりわからないとでも言うようにぽかんと呆けた顔をしている。 「…ふむ、」 組んでいた足を解く。ついでに携帯灰皿にまだ吸えるであろう長さのタバコを捨てた。その後、手を前で組み、まるで尋問をしているかのような気分になる。 「お前って本当すげえな」 「は」 「うん、お前はそんな役でおさまってるようなやつじゃないって思ってたけどな。我が教え子ながらあっぱれ」 「はあ……」 それこそ何が何だかわからないと言った風に息を漏らす。 「で、どうなんだ」 「…あの、教授、言ってる意味がわかりません」 「察しろ」 「はあ…」 ここまで俺が頑なに言わないのだから絶対お前は気付いているだろうに。 何のことだろうと首を傾げ一向に答えを返さない犬飼にだんだんいらついてきて。 「お前、本当に院には行かないのか?」 「へ」 なんだそういうことかと自分の頭に浮かんでいた答えを最終解答と確定したようで眉間に寄っていた皺がなくなった。 「はい、行きません」 「どうしてだ?お前は優秀だから院に行ってもうまくやっていけると思うし、それに俺のお気に入りだ。うまくいかないわけがない」 「教授のお気に入りですか、俺」 「ああ、そうだぞ。だからもっと胸を張れ。そして院に……」 「行きません」 「なんでだ?」 「俺は早く働きたいんです。早く働いて一人前になって、…あいつを守れるようになりたいんで」 あいつ、と言葉を発してさっきまでの腑抜けた顔はどこへやら、真剣に真面目にあいつのことを考えて発言しているのだと一発でわかるくらい真摯な顔を俺に向けた。 ふーん、そうか。 そんな犬飼にこれ以上何を言ってもダメだろうと悟る。こいつは院なんてちっぽけな組織に収まっていられるほど小さな人間じゃない。もっと大きな世界へ羽ばたいていける大きな器を持っている。こいつはもっと上にのぼることができる。世間の物差しで測った殿上などではない、自らの思う自身の高みへと。 「うまくいってるんだな」 「はい?」 「お前、本当に、むかつくくらい男前だな」 「はあ…」 よっ、男前、俺にもコーヒー。 今自分の分をコーヒーメーカーからカップに入れようとしていた犬飼ははあと溜め息をついて、自分の空のカップを置いて俺専用のカップにコーヒーを注ぎ始めた。 はいどうぞ。 直接渡されたカップから先程よりも強いコーヒーの香りがした。まだ熱いそれは俺にとってちょうどいい温度だった。 「女神サマを守る真の騎士、といったところだな」 「…なんですかそれ」 「高校時代はお一人様だったんだろう?あの子」 「ああ、まあ、一人だけでしたね」 「加えてあの美貌だ。いや、可憐のほうが形容詞的に合ってるだろうか。とにかく野郎どもが放っておかないだろう」 「まあ確かにモテはしましたけど」 「心配じゃなかったのか?」 「…心配とか考えたことないです。ないものねだりだったんで」 「ないものねだり、ねえ…」 「それに言っときますが、俺は騎士なんて大層なもんじゃありませんし、今のあいつは俺にとってはただの大事な彼女なんで」 そんなの関係ないんです。 今俺に渡したカップとは別のカップのコーヒーを一口、こくりと飲み込んだ。俺もつられて一口。 うん、苦くて酸味もある。これが好きなんだ。 コーヒーカップを一回置き、一本タバコを取り出し火をつける。小指の第一関節までほどの小さな火が、娯楽の葉を燻らせる。くわえてタバコを味わうとコーヒーの苦味とは違う味わいが得られた。 「本当、俺に似て男前だな」 自分の席に戻ろうとしていた犬飼は途端固まって、少しの沈黙のあと情けない顔を俺に向けた。 おいおいどうしたその豆鉄砲喰らった鳩みたいな面は。 「…一応ありがとうございますと言っておきます」 一応、ともう一度一応を繰り返した。 おい、それは俺が男前じゃないって言いたいのか? いつもは真面目に研究してますよ (とりあえずタバコ吸いながらコーヒー飲む癖やめていただけませんか?) (何言ってんだよ二つのこと同時にやってのけてこそ真の男前だろ) (…男前の定義間違ってますよ) (まあコーヒーって言って素直に出してくる犬飼が悪い) (結局俺のせいですか) 相良様へ request thanks! 2011/08/02 |