12-1r | ナノ











「本当に、大丈夫?」


保健係の先輩に心配されながら、僕は保健室のベッドに横たわっていた。うまく言葉が紡げない。まあそれほどやばいってこと。

全く珍しい。自分のことに関してはきちんと管理をしているこの僕が体調を崩すなんて。

先輩もそう思っているのか眉間に皺がよって今にも泣きそうな顔をしている。


「なんとか」


はぁ、と熱い息をはいてやっとのことで一言吐き出す。


「全然大丈夫そうじゃないけどなあ」


ダメならダメってちゃんと言ってもいいんだよ?まあ言われて私が何とかできるわけでもないけど…。
先輩は自分が何もできないって思ってるんだろうけど、そんなことは全くもってない。


「何言ってるんですか、先輩が僕のそばにいる、それだけで僕は元気になれるんですよ?」


さっきの一言を皮切りに言葉が頭に浮かんでくる。いつもの調子が少し、戻った気がした。


「…すぐそういうこと言う」


すると見ることができるのはかわいい膨れっ面。
僕は素直な気持ちを言っただけなのになあ。


「本当のことですよ?僕は先輩がそばにいると嬉しいんです」


いつもいつも頭のどこかで必ず先輩のことを考えて、誰かとしゃべってると柄にもなく嫉妬してしまう僕だから、不謹慎だけど、先輩が僕だけのものと錯覚できる今この瞬間がたまらなく嬉しいんだ。


「そっか」


肯定ではなく照れ隠しで言葉を発した先輩の笑顔はとても柔らかくてとてつもなく抱きしめたくなって。
でもうまく動かせない体にいらついてやつあたり。


「先輩、」

「ん?」

「キスしてください」

「…えっ」


僕の言葉を聞いた瞬間真っ赤になってしまった。


「な、なにいって……」

「病人のお願い聞いてくれないんですか、保健係さん?」

「…うぅ…」


それはずるいよ…と小声で言った先輩はしばらく目線をキョロキョロとさせながら決意を固めたかのように一度深呼吸をした。そして。


「…じゃ、あ」


自分の視界が暗くなった。先輩の陰になったのだ。額へ近付いてくる先輩の顔に見とれる暇もなくあっという間に離れていった。



「早く、元気になりますように」



そうやってふわっと笑った先輩は、いつもの元気な笑顔とはまた違う、女神というより天使ような様相だった。……ああ、この笑顔。


「……そうやって、僕を煽って楽しいですか?先輩」

「え?…ぁ、煽っ……?」

「しかもなんでおでこなんですか……」

「だ、だって…こ、子供のときに錫也が私と哉太にしてたから……」


錫也ママ直伝だし、私たちはそれでいつも元気になってたから…とか何とかもごもごと言う先輩。

東月先輩に、七海先輩、か…。

またいらぬ悩み事が増えそうだ、と僕は嬉しいやら悲しいやらの気持ちで少し自嘲して。


「また先輩は僕の前で違う男の話をするんですね」

「え、ぁっ、」


何かを言おうとした口を遮るために病人とは思えないくらい素早く身を起こして掠め取るかのようなキスを一つ。
体を起こすことはできたけど……ああ、ダメだ、くらくらしてきた。


「……いつもそうやって私のこと振り回すんだから…」


そう言ってまた膨れっ面になる先輩。
いやいや、何を言ってるんですか先輩…

僕のほうが先輩に翻弄されっぱなしですよ?










頭を満たす幸福とそれに伴う悩み事
(皆の女神をいくら彼氏とはいえ一人占めするなんてできませんから)





月乃様へ
request thanks!



2011/06/26