※戦場と楽園の続きっぽい 普通だった。うん、普通だった。 あれだけ意気込んでいたのに、その意気込みはどこへやら、まるで昨日あった出来事を話すかのように自然に口から言葉が零れた。 『あのさ、俺、青空のこと好きなんだわ。ああ、恋愛感情で、だからな?』 『え…』 ある日いつものようにだべっていたはずの俺達の会話で、唐突に俺が言葉を発した後、少し間が空いて。 言葉を発した時に冷静だった心は何故か言った後からああ、俺はとうとうずっと胸に秘めていた想いを口にしてしまったのか、と認識して今更ながら胸が早鐘を打ちはじめる。 いつまで経っても破られない静寂に、ああこりゃダメだ、いっそ早く振ってくれよ畜生、などと思っていたのに、そんな俺を待っていたのは、決して黒くない、純粋な輝きを持ったあいつの笑顔だった。 『よろしく、お願いします』 すんなりOKしやがって……ったく、何考えてんだっての。 ああ、それは俺にも言えることか。 だけどあの時の青空の顔といったらまあ珍しいほどに柔らかい笑みを浮かべていて、俺は幸福を噛み締めることを覚えた。 「犬飼くん?」 「あ、ああ、悪い」 今日は学校から寮までの短い道を一緒に帰ると約束していたんだった。 俺の隣で歩いていた青空は黙っていた俺を不思議に思ったのか、名前を呼んできて。 ぼーっとしていたことを詫びて彼のほうへ顔を向けるときょとん、と、いつもの青空らしからぬ呆けた顔をしていて。 思わず微笑がこぼれる。 「……人の顔を見て笑うなんて、どうかと思いますが」 「すまんすまん」 「…何か、考えていらしたんですか?」 「え?」 「いえ…何だかいつもの犬飼くんらしくない真剣な顔をしてらしたので」 「おい、それじゃあ俺がいつもは真剣じゃないみてぇじゃねぇか」 「あれ、違いましたか?」 「青空……」 ったく、副会長様の毒舌っぷりは今日も顕在ですこと。 俺がわざと大袈裟に肩を落としながら大きな溜め息をつくと、青空がくすくすと笑った。 「まあそれはさておき……何か、考え事でも?」 「あー、まあ、な……」 考えていないと言ったら嘘になるからな、一応考え事になるのだろう。 でもこれをこいつのまえで口に出してもいいのかと少し悩む。 言おうか、言うまいか。 青空のほうに俺は顔を向けた。 いつもは真面目な副会長の顔をしているその顔が、今はどことなく表情が柔らかく思えて。それが俺のもたらした変化の恩恵だと信じたい。それだけでいくらか救われる。 本当に、誰が俺らを引き付けたのか気になるぜ。 性格だって正反対、本来なら絡まそう、合わなそうだってのに。 そんな相手といつの間にか一緒にいて、お互い楽しくて、お互いがお互いを必要としていて、況して俺なんか一方的な恋慕の情を持ってしまって(結局はこっぱずかしい言い方だが両想いで)。 「……あの、」 「ん?」 「あんまり見つめられると、その…恥ずかしい、というか…」 そう言って青空は顔を少し赤らめて俯いてしまった。 そんな青空を……可愛いと思ってしまって。 「…じゃあ、もっと恥ずかしいことしてやるよ」 「え、うわっ…」 頬を両手で挟み、ぐいっと、自分のほうへ近付ける。 一瞬だけ触れた唇。 すぐに離すと自分の目の前には、さっきよりも更に顔を赤らめた青空がいて。 「な、なにやって…!」 「何って…き」 「言わなくていいっ!」 そう言ってそっぽを向いてしまった。 敬語を崩してまで慌てる副会長様を見るのはなんだか新鮮で、そんでもってそんな姿は俺しか見ることが出来ないんだと思った瞬間、 「へっ、ちょ…」 青空を抱きしめていた。 「犬飼く、ん…!」 「なあ」 「はい…っ?」 「俺の部屋、来れるか?」 「へ…」 「近いんだから、大丈夫だろ?」 「…は、い」 そう小さな声で言った青空の顔は抱きしめているせいで見えなかったけれど、さっきよりも確実に赤くなっていることだろう。 そう考えてふっ、と笑みを零しながら俺は彼の背中に回していた腕を外し、代わりに彼の腕を引っ張って、自分の寮へと足早に向かって行った。 別れを、出会いに (下らない倫理にさようならをして、これから始まる新たな幸せに挨拶をしよう) 2011/06/09 |