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!和臣くんと椿くん








期待なんか、とっくになくなっていたと思っていたのに。
何も、言える言葉がなくて、ただただ、呆然と彼に触れていた。





「おーい、椿、寝てんのかー?」


和臣の家に着いてから早々に椿が喉乾いた、と言ってきたため、仕方がないから、椿に先に部屋へ行くように促し、鞄は持ったままで、椿の大好きな林檎ジュースを持ってきたというのに、当の本人は和臣のベッドの上にうつ伏せになって寝転がっていた。


「つーばーきーくーん?」


ドアのところで突っ立ったまま、間抜けな声で名前を呼んでみたものの、返事がないため、きっと寝てしまったのだろう。
耳を澄ますと、微かに寝息が聞こえた。


「ったく、我儘な奴だなー…」


持ってきたジュースを机の上に置き、鞄を下ろすと、和臣は椿を起こさないように、ベッドに寄り掛かった。


「こりゃまた幸せそうな顔をしてんなぁ…」


椿の顔は元が童顔であるため、寝顔は子供そのものだ。それに加えて今は口角の上がった口元をしている寝ているのだから、大げさに言えば、天使の寝顔、というやつだ。


「…み、……、」

「ん?」


何か言葉が発せられたが、小さすぎてほぼ声でなかったため、何を言ったのかわからなかった。

「どうかしたか?」

寝ているのだから、和臣の声を認識することはできないはずなのに、なのにそれに呼応するように。

「か……、……み、」

「…え?」

微かな音が自分の名前を紡いだかのように聞こえ驚いたが、その驚きは後の言葉によって遥かに凌駕された。


「、…して…」


これは、何かの聞き間違いだろうか。
しかし、これまで言葉と呼べるほどのものを発していなかった椿の口からはっきりと聞こえた言葉。


「き、す…?」

「んっ…。」


まるで肯定したかのように体をひっくり返して仰向けになり、息を漏らした。
和臣のすぐ傍には、椿の唇。男のものとは思えないくらいかわいらしい桃色をした唇。
そして、その唇から紡がれた言葉。
その思考が一気に脳内を駆け巡った瞬間。



「……、……え?」



あまりにも一瞬の出来事で、何が起こったのか、和臣自身、認識ができない。



(俺…今…)



キス…した…?



いつの間にか、唇が一瞬だけ触れ合ってしまった。


「…っ、…!」


思わず口元を左手で押さえる。
少しずつ、少しずつ沸き上がる、高揚感。
それと同時に、少しずつ、少しずつ沸き上がる、罪悪感。

ああ、この曖昧な関係を保つために、自分の気持ちを抑えようと、あまり触れないようにしよう、と、そう、思っていたのに。
まして、唇に、触れてしまうなんて。

体は正直だ。その行為を脳内でしっかり認識すると、自然と体が熱くなる。それよりももっと先の行為を望んでいるかのように。


「…、お……み……」


また、言葉が紡がれる。



(俺…おれ……。)



謝ることさえ、体は許してくれない。
脳内で必死に信号を送ろうとも、唇が動かないのだ。何も出来ない、なにもできない。
ただ。
自然と口元から外れて動いた左手に、慈しむような感情をこめて。


「……んっ……。」


そっと、頭を撫でた。








complex feelings
(幾ら頭が良くたって、働かないのなら)
(なんて無意味な、ただの器官なのだろう)





身内ネタ
2010/07/24 執筆

2011/05/13 修正&up