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いつの日か、何故か恋話になった夜久との会話で、あいつが無謀な恋をしようとしていることがわかった。
相手はさすがに誰か言ってはくれなかったが、あの夜久のことだ、叶いそうもない恋をする相手なんてあの教師陣の中にしかいないだろう。


『別に叶わなくてもいいと思ってるの。気持ちを伝えられればそれでいいかなって。……伝えるだけでも大変だけどね』


そう言って苦笑いした夜久の顔は悲しみや辛さ、でもその中にも幸せが垣間見えるような本当に複雑な表情をしていて、いつもは見せないそんな表情に、ああ、恋とは一見脳天気、天然、そしてただの頑張り屋のこいつをここまで悩ませ変えてしまうのだと、少し怖くなった。



不毛だろうが関係ない、想えるだけでいい、ってことか。
もうちょい早い時期なら俺もそうやって言っていられただろうな。

……でも俺にはそんなことは言えねえ。
十分に、痛いほどに、味わってきてる。

想ってるだけの辛さを、それでも側にいなくてはならない辛さを。
最初俺は、臆病だから頭の片隅では伝えたいと思っても大脳の大半が伝えられないと逃げ出した。逃げて、側にいることの辛さを望んだんだ。……いや、伝えたとしても形は違えどその辛さは変わらなかっただろう。そう、俺はこの感情を持った時点でそんなことわかっていたはずなのに、今になってやっぱり苦しい苦しいと藻掻いて助けを求めている。
馬鹿だな。本当に。

本当に、何を考えてんのかさっぱりわからん。
全く、困ったもんだぜ、こりゃ。



とは言ってもまあ現実はそう甘くなくて、困っているからといってしゃーねえな、動いてやるよ、なんて誰かが重い腰を上げてくれるわけもなく。全くもってどうともいかない。
故にこの状況をどうにかこうにか自分の力で打破しなければいけないわけで。



早く解放されたい、でも、壊したくない。
一番の望みはこの檻の中から矛盾した心を解放することだ。



……はいはい断罪断罪。
そんな中途半端じゃなくて、もういい加減、白黒はっきりつけた方がいいと思うんだ、俺の精神的な意味で。
いい加減、辛い。

だから



御託を並べるだけはもう飽きた。
倫理や常識なんて感情に平伏すがいい。
偉大なる女神様のように、伝えるだけだっていいじゃないか。
今までの関係が壊れるのは好きじゃない、でも、その前に俺が壊れちまう。
やはり自分が大切な臆病者なだけなんだ。



こんなの俺らしくないっつったら、俺らしくないが、まあ、あの夜久があんなに変わってしまうくらい恋というものは怖いってことにして、





さあ、勝負に出るとしますか。










戦場と楽園の狭間
(全て自分次第)





2011/05/08