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「お前は何がしたいんだ、」


張り詰めた空気の中、発せられた凛とした声に、僕の嗜虐心は擽られて。その綺麗に言葉を紡ぐ器官から、あと少しであられもない嬌声が紡がれるのだと胸が高鳴った。


「僕は琥太にぃを縛っておきたいだけだよ」

「今縛ってるじゃないか」

「……そうじゃなくて」


全く、この人はわかっちゃいない。
この僕の気持ちを、というより誰かを想っている人の気持ちを。


「今は手だけだから許してるだけだ。全身とか言ったら俺はそんなことやらんぞ」


……そんなことでもない。
僕は琥太にぃを縛っておきたいけど、それは身体的な意味なんかじゃなくて、況してそんなサディズムに塗れた行為、誰がするか(まあ今、手だけは縛ってしまっているけど)。
そんなことを言うなんて琥太にぃは僕を何だと思っているのだろう。


「そうじゃなくてね、」

「……そんな子供染みた感情、あっても無駄なだけだぞ」


一瞬、部屋の空気が凍り付いた。琥太にぃの手を縛っていた手を思わず止める。高鳴っていた胸も急速に落ち着いてくる。

今僕の下にいるこの大人は何もかも知っているんだ。
僕の醜い独占欲も何もかも。
知っていて、わざとわからないふりをしたんだ。どうして。


「何れ離れるんだから、変にそんな感情を植え付けると、大変なことになる」


淡々と物事を告げるその口を、今すぐにでも止めてしまいたかった。
だけど何故か僕は動けなくて。
僕の瞳は中途半端に縛られた琥太にぃの手を見つめるしかできない。


「郁」


ああ、もう止めてよ、わかったから、もう、これ以上、何も言わないで。
なるべく瞳を見ないように琥太にぃの唇に口づける。
何の反応も示さない琥太にぃを不思議に思ってちらりと瞳を見遣ると、僕が口づけるとわかっていたかのようにその瞳は既に閉じられていた。
やはり、彼のほうが一枚上手なのだ。
その事実になんだが悔しくなって、舌を割り込ませた。
くちゅり、と唾液が合わさる音がして、それに思考がぼやけていきそうになるけれど、こんなことで参っていてはダメだと、更に口腔の奥へ舌を伸ばし、彼の舌を絡めとる。


「ん、」


そんなことわかっているよ、わかってる。でもしょうがないじゃないか。どうせ僕はまだ子供でそんな感情を捨て切れないんだから、仕方ないでしょう?

深くなっていく口づけが何だか駄々を捏ねているみたいで子供のようなその行動にまた嫌気がさしてきて、まだ十分に琥太にぃの唇を堪能してはいないけれど離してしまった。


「琥太にぃ」

「……郁」


僕の名前を呼んでゆっくりと目を開けた琥太にぃの瞳は、何故かもの哀しい色をしていた。どうして。


「っ、どうして、そんな」

「早く、しろ」


僕の言葉を制して言った言葉が決め手になって、僕の感情を否定した琥太にぃがどうして僕を繋いでおいてくれるのかその理由が一発でわかったような気がした。

やはりこの人は、狡い大人だ。










否定を肯定
(一緒なんだね、やっぱり)





2011/03/30