献身的な態度。 それは一般常識から見ても自分に向けられることは嬉しいし、しかもその代名詞と言っても過言ではないような彼女から向けられるということが、僕にはすごく嬉しくて。 「ただいま」 「あ、おかえりなさーい」 疲れて帰ってきたときに誰かが迎えてくれるという安心感。 誰もがこの気持ちに賛同するだろうけど、特に待っていてくれる人が彼女だということがより一層僕を安堵させる。 パタパタ、とスリッパの音を響かせて僕を迎えてくれた月子。 今までとは違う、ちょっとした関係性の変化に僕は心の中で微笑んだ。 「どうしたの、エプロンなんかつけて」 「あ、料理、してたの」 「料理……?」 彼女にはあの料理が得意な(というより世話好きの)幼なじみがいたせいか、料理はあまりしたことがないらしく、腕前は壊滅的だった。というか星月学園時代のお茶汲みの才能からして少しは想像できたけれど。 僕と住むようになって何回か作ってくれたものの、きちんとレシピがあったのにもかかわらず、見た目的に果たしてこれは料理と言っていいのかわからない代物が出来てしまった時があり(一応食べてみたけどノーコメントってことで)、その時は結局僕がそのレシピ通りに作り、事無きを得た。 そのことがあったから、僕は疑わしそうに彼女に聞き返したのだ。 「あ、大丈夫だよ、今回のはちゃんとしたものになったから!」 「あの独創的な料理じゃないの?」 「ち、違うよ!」 月子を冗談半分本気半分でからかいながらリビングへ行くと、出来立ての温かいご飯が机の上に並べてあった。この間とは違う、おいしそうな匂いもしている。 「本当だ、ちゃんとできてる。見た目もおかしくない。」 「ちょっと、郁?」 この間とは明らかに違う成長ぶりに、彼女を料理音痴にした張本人のあの幼なじみの顔が浮かんだ。 「……もしかして幼なじみくんに手伝ってもらったの?」 「あ、えっとね、錫也に教えてもらおうかとも思ったんだけど、錫也も錫也で忙しいから迷惑かけたくないなーって思って頼まなかったの。それに、あの、その、もう郁のお嫁さんになったわけだし、やっぱり郁に私が一人で作った料理を食べてほしいって思って料理本とかインターネットとか色々調べて、頑張って作ってみたの……」 俯いてしまった彼女の顔はあまり見えないけれど、ほんの少し赤くなっていた気がした。 ああ、本当に、この子は僕をどこまでドキドキさせれば気が済むんだろう。 「月子」 僕は彼女の名前を呼ぶと、そっと抱きしめた。 「い、く?」 「ありがとう、嬉しい」 「あ、でも、味は保障しないよ……?」 「……もし不味くても、僕は月子が僕のために一人で作ってくれたってことが嬉しいの」 「郁……」 そっと体を離し、月子の唇に軽いキスを一つ。 「よくできました、ってことでご褒美、だよ」 「ふふっ、ありがとうございます」 そう言ってふわっと笑った彼女の顔は見ている僕のほうまで嬉しくなってきて。 きっと僕にとってのご褒美になっているんだろう。 でも僕にはもう一つ、ご褒美があるんだ。 「さて、見た目は合格だけど味はどうかな?」 「う、だから味は保障しないよ……」 「おいしくなかったら口直しがほしいところだね」 「口直し……あ、そういえばこの間買ったうまい堂のシュークリームがあるよ!」 月子は本当に純粋で、僕が考えていることとは全然違うことを言っている。 そんなところもすごくかわいいんだけどね。 「……本当にわかってないな」 「え?……ん、」 キョトンとした顔を僕に向ける君の顎をすくってもう一度キスを一つ。 「僕にとっての口直しは、君、だよ?」 「えっ!?」 「さーてと、僕は手を洗ってくるから。食後が楽しみだなー」 「い、郁……!」 きっと真っ赤になっているだろう月子のことはさておき、僕はまだ味を確かめてはいないものの、食後の口直しを楽しみに、洗面所へ向かった。 ご褒美のドルチェをどうぞ (あれ、おいしい……) (よかった……) (……でも食後に口直しは当たり前だよね) (……!?) 夢月那由紀様2000リクThanks! 2011/03/01 |