「……夜久、どうした?」 「ううん、何にもー」 部活の帰り道。 弓道場から寮まで、たったそれだけの短い道のりだけど、やっぱり好きな人と帰れるのは嬉しくて。 そのことで自然と顔がにやけてしまったところを見られてしまったらしい。 「……やっぱなんかあんだろ?」 「え?」 「俺がおかしいのか?」と身なりを心配する犬飼くんに、一応弁解として、自分の本心を打ち明ける。 「犬飼くん、」 「あ?」 「私ね、嬉しいんだ」 「何が?」 何が何だかさっぱりわからん、といった風にきょとんとした顔を私に向けてくる。 なんか、かわいいかも。 「犬飼くんと、こうやって帰れること」 「っ、」 「犬飼くんは?」 「あ、ああ、俺だって、嬉しいぞー」 顔を赤くして照れながらも私のほうに笑顔をくれる犬飼くんにきゅっと心を奪われて、ちょっとだけ大胆になりたくなった。 「ねえ、」 「ん?」 「キス、したいな、」 「っ……、」 犬飼くんが息を飲む音を楽しげに聞きながら、犬飼くんの制服の袖を掴んだ。 橙色の一時 (少しだけ、優位に立ってもいいですか?) 2011/02/24 |