※「過積載の行方」月子視点 今私の手の中にあるこのボールを貴方に向かって投げたら、どうなるかな? きちんと綺麗に放物線を描いて貴方のもとへ届いてくれるかな? そう思った私は試しに一回投げてみた。そしたら貴方は全く気にしてないみたいで。しかもボールは貴方に届く前に落下してしまった。 もしかしたら私はただ垂直に投げただけで、ボールが頂点に達した後、重力加速度に従って落ちていったのかもしれない。放物線は描いていただろう、なんて係数の小さい二次関数。 でもそんなのは平面のお話なのだから、ボールと一直線上にあった私にはわからないし、もちろん私と線で結ぶことのできる貴方にもわからない。 (どなたかこの二次関数のグラフを正面から見つめていらっしゃる方はいませんか) だから私は、きっと私から投げてはいけなかったんだと、あの人が投げて初めてこの想いが通じるのだと、自分勝手に決め付けた。 今度は貴方の番だよ。 そう何度もアイコンタクトを取るけれど、貴方は投げるふりばかりして、その手の中にある翡翠色のボールを一向に投げる気配がない。 もしかして、私の、独りよがり? 思わずひやりとした空気が足元に流れ出す。全身が、硬直する。 動揺を隠しきれないでいた私の手には、いつの間にか別のボールが。 私のではない、かといってあの人のでもない、透き通った朽葉色のボール。 それは意外にも綺麗な色をしていて、そのボールから感じられる温もりが何よりも心地好くて。 私は思わず惹かれてしまった。 だから、気付かなかった貴方へ、 『あのね、私、本当は犬飼くんのこと、好きだったんだよ』 そんな、とんでもない悪送球をしてみる。 まるで他人事かのような私の言葉を聞いた貴方は思いっ切り目を見開き、とても驚いていた。 加えてその目には絶望の色が見えたの。 仕方ないでしょ?目移りしちゃったの。 だって、貴方がいつまで経ってもその綺麗な翡翠色のボールを投げてくれないから。私はいつでも受け止める準備ができていたのに。投げるふりばかりじゃあ、私は我慢できないの。 そんなに焦らしたって、私は無理なの。 こんなことして、胸が痛むけど、ごめんなさいとだけ謝っておきます。 ごめんなさい、ね、 ボールに込めた、小さな復讐 (私の願いを叶えてくれなかった貴方に、私からの最初で最後のプレゼント。) 2011/02/22 |