この世の中で、偶然ほど残酷なものってないよね。 本当、偶然って残酷。 そのせいで、忘れたいものがいつまで経っても忘れられないの。 いつもふとした拍子に思い出させる。 ほら、今だって、 「あれ、夜久?」 「え、あ……、」 懐かしい声がしたからなんだと思って振り返る。いや、声だけの時点でわかっていた、その人。だって、ずっと想っていたんだもの。 「犬飼、くん、」 「髪が短かったから本当に夜久なのか自信なくてちょっと声かけづらかったぜ」 「あ、」 「髪、切ったんだな」 ちょうど今、近所にある美容室で切ってもらってきたのだ。 ……忘れたい想いを、忘れるために。 「うん、今さっき切ってきたの」 「今?じゃあ俺が一番最初に髪の毛の短い夜久を見れたってわけか」 そう言って悪戯っ子のように笑う。 そんな貴方が、誰よりも愛しかった。 「いや、一番最初は美容師さんじゃないかな?」 「あははっ、そっか。それもそうだな、」 無邪気に笑い、くるくる変わる表情。 そんな貴方が、とても愛おしくて。 長く、長く想っていた。 でも貴方は全然気付いてくれなくて。 胸が苦しくて、苦しくて、ああ、泣いちゃいそうだよ。 ……でもね、あの頃のような長い髪じゃないんだよ? なくした代わりに偶然に勝てるほどの力をもらったんだよ? だからもう大丈夫。 大丈夫、 そろそろ進まなきゃ、いつまで経っても終わらない。 「じゃあ、またね、」 「おう、今度元弓道部のやつらで集まろうぜ」 「うん。……バイバイ、」 だからもう振り返らないよ。 とある偶然の残酷さについて (さよ、なら、) 2011/02/21 |