「え、今、なんて……」 「だから、嫌いになったの、君のこと」 「え、」 「じゃあね」 「ま、待って、郁っ……!」 パタン、と、別れ話と言うにはあまりにも呆気なく交わされた(正しくは一方的に押し付けられた)会話の後に優しく閉められた扉。 ああ、それ越しに君の泣く声が聞こえる。 きっと悲しさで泣くときも、綺麗な顔で泣いているんだろうな。 そう思ったら何だか急に胸が熱くなってきた。 ……全く、僕らしくない。 彼女と一緒にいるときの僕は本当に自分らしくなかった。 一時は希望を抱いて彼女と歩んだけれど、こんな感情、知りたくもなかった。 彼女が他の男と話しているだけでぐるぐると嫌な感情が渦巻く。 それだけならいい。僕の場合のそれはぐるぐると渦巻いていくうちにどんどんエスカレートしてきて、僕以外の誰の目にも触れさせたくないと思うところまでいってしまった。 僕だけのものにする、そんなこと、現実にはありえないけれど、もし僕の気持ちが抑えられなくなって、本気で実行しようとしたら大変なことになるだろう。 だから、そうならないように、僕は君を手放す。きっと君は僕に飼い殺されるより、あの永遠の子供のように自由に空を飛び回っていた方がいいと思うんだ。もちろん君のためにも、僕のためにも。 君は誰よりも自由なのに、僕が羽を折るなんてことをしたら、あの過保護な幼なじみたちやらその他大勢に怒られそうだよ。 君はきっと、選択を間違えたんだ。 どうして僕を選んだの? 僕なんかよりあの騎士たちのほうがよっぽど有能で、絶対に君のことを守ってくれるだろうに。 どうして、僕に手を差し延べたの? ……好きだよ。さっき言った、嫌いになった、なんて言葉は嘘だ、嘘だよ。また君は僕に騙されるんだね。 でも、もうおしまい。よかったね、もう僕に騙されなくて済むよ。 ここからこの足を踏み出したその瞬間、僕は、僕自身に戻るんだ。 さようなら、そしてこんにちは (どんなことにも裏切りはつきもの) 2011/02/13 |