君の笑顔は何よりも勝る僕の薬みたいなもので、僕にはそれさえあれば十分なんだ。 だから、君のその笑顔を失うようなことは絶対に嫌なんだ。 「ねえ、大丈夫?疲れてない?」 矢を放ち終え、休憩に入ろうとすると、彼女の様子が少しおかしいことに気がついた。 「へ、あ、金久保先輩……はい、大丈夫ですよ。」 そう言っていつもの笑顔を浮かべた君は、その目の下にできた隈が全てを語っているようで、全然大丈夫そうには見えなかった。 彼女のことだから、また頑張りすぎてるのかな……。 「頑張るのはいいことだけど、頑張りすぎは体によくないよ?だから少し休憩したほうがいいと思うな」 「そう……ですね。じゃあ少し外で休憩してきます」 「うん、ぜひそうして」 彼女は僕に軽く頭を下げ、弓道場の外へ出ようとした、んだけど。 「……っ……!」 彼女の体が一瞬傾いたため、僕は必死に彼女を支えた。 「大丈夫!?」 「あ、はい、ちょっと眩暈が……、って、金久保先輩っ?!」 「保健室、行こう」 辛そうにしてる彼女を見ていたくなくて、彼女をいわゆるお姫様だっこで保健室まで運ぶことにした。 「せ、先輩っ……!」 「宮地くん、ちょっと保健室行ってくるから後のことは頼んだよ」 突然のことに狼狽えている彼女にはお構いなしに宮地くんにそう告げ、宮地くんのことだからしっかりやってくれるだろうと、彼が返事をする前に彼女をつれて弓道場をあとにした。 保健室に行くとやっぱり星月先生はいなくて、とりあえず彼女を寝かせようとベッドに横たえた。 「か、金久保先輩……ありがとうございます……」 「……あれだけ頑張り過ぎちゃダメだよって言ったのに」 「……ごめんなさい……」 僕が少し責めるように言うと、体調が思わしくないせいか暗くなっている顔を更に暗くした。 ……ううん、僕は君のそんな顔が見たくて言ってるんじゃないんだ。 「これからこんなふうになるまで無理しちゃダメだよ?」 「……はい……」 「とりあえず、今は寝て?ゆっくり休んでね」 「……本当に、ごめんなさい……」 「もう謝らなくていいよ。気にしないで、ほら、おやすみ」 「おやすみ、なさい……」 そう小さい声で言って、彼女は眠りの世界へと誘われていった。 「本当に、頑張り屋さんなんだから」 さっきまで辛そうにしていた顔が、今ではすっかり穏やかになっていた。すうすうと静かに寝息を立てる彼女の頭をゆっくりと優しく撫でる。 ときどき妹たちにもする、それ。妹たちへのものと同じではあるけれど、彼女に向けたものはどこか違っていて。 その彼女限定の感覚があまりにも気持ち良くて、僕の顔には自然と笑みが零れていた。 「今はゆっくり寝て、また僕に君のその笑顔を見せてね。君のその素敵な笑顔を……」 僕は彼女に聞こえるか聞こえないかの声でそう囁くと、彼女の額に静かにキスをした。 笑顔の薬 (少しだけ、彼女が微笑んだ気がした) 2011/02/06 |