「はぁっ…はぁ…はっ……」 息を切らして、見上げてみる。 私を射抜く、冷たい視線。 一瞬ドキッとして、思わず俯く。 「……………」 何も言わずに、私をただ見下ろしているのが、見なくてもわかる。 冷たい、視線。 いつもは向けられることのないその視線に、私は恐怖を覚えた。思わず顔が強張る。冷や汗がつーっと背中に沿って流れていった気がした。 優しいはずの先生の眼差し。 私を包み込んでくれる、温かいもの。 それが今は鋭利な刃物かのように私を突き刺している。確かに感じている恐怖。 けれど、はまっているのはなぜだろう。 何故か、しっくりきてしまう。 いや、違うかもしれない。 向こうに感化されているのだろうか。 それとも……求めて、いるのだろうか。 もしかして私は……。 「月子」 いきなり名前で呼ばれ、びくっと体が過剰に反応した。もしかして、私の裏の感情を知っているのではないか、もしくは私が責任転嫁しようとしていることを知ってるのではないかと、疑ってやまなかった。そう、いつも信用、安心という言葉の代名詞の貴方を、たかが自分のエゴや卑怯さを知っているのかどうかそんな程度で疑うなんて。……そんなこと。 「せん、せ………」 微かに心の隅で感じる感情を押し殺して、恐怖を前面に押し出した声色。顔を見上げるような形で先程までの激しいキスで潤んだままの瞳を貴方に向ける。 ……私は貴方相手にこんな演技をするような人間だったかな? 自分で自分が、よくわからなくなってきていて。 「立ちなさい」 表情も変えずに発せられた命令じみたその言葉に、自分を認識できていない私は抗えないようで、ゆっくりと、それはそれはゆっくりと立ち上がり、正面に立った。 「琥太郎、さん」 次は自分でも驚くくらいはっきりとした口調で、さっきの恐怖心など微塵も感じさせないくらい、堂々とした口調で、私は愛しい人の名前を呼んでいた。 「……………」 「……………」 いつもは私たちの間には何もないけれど、今、沈黙を保つ私たちの間にはある何かが横たわっていた。それが、何なのか。それに気付いたらきっと、もう抜け出せなくなる。 「……すまな、かった、な」 やっと口を開いた星月先生の表情は少し曇っていて、そして先生の声色から発した言葉の通り私に心から謝っているのがわかる。 ……どうして?どうして謝るの? どちらかというと謝るのは私の、 「せんせ、ん……!」 貴方の一挙一動に、細かい描写を加えられないほど素早く、私の唇を掻っ攫う。 ちょっと待ってください、少しくらい説明、いや、自分の感情くらい認識させてくれたっていいんじゃないでしょうか? そんな戯れ事を頭の中で考えながら、まあいいかもうどうでもいいや全て無駄になることは間違いないのだから、と考えることを放棄して私は貴方の狂喜を享受した。 empathy?sympathy? (果たしてどちらの感情が、先行しているのだろう) 2011/01/30 |