6-4 | ナノ








近付きたいけど近付けない距離。
物理的にも遠いし立場上無理な話。
なんで今、しかもここで出会ってしまったのか。
どうして私たちは出会ってしまったのだろう。



「……なんで、かな……」



例え人里離れた場所だとしても1時間もあれば街へは行ける。
そこで出会ってはいけなかったのか。
私たちは同じ趣味持ち、かつ同じ学問を学んでいるわけで、例えば同じ時間に同じプラネタリウムに行く可能性は無きにしもあらずというかどんなに限りなく0に近いにしてもあるに違いない。
そこで出会ってはいけなかったのか。


「……………」


読書中の水嶋先生は余程集中しているらしく、私の独り言は聞こえていないようだ。

星月先生が(今回は決して職務怠慢などではなく、理事長としてのお仕事で)不在のため、私はいつも通り保健室のお留守番で、水嶋先生は用があったであろう星月先生がいないにも関わらず何故か保健室に居座っている。
ガラッと勢いよくドアが開いて水嶋先生が入って来たときはやばいかなまたからかわれるかも、なんて思っていたが、「なんだ、琥太にぃいないの」とだけ言ってソファの上に我が物顔で座ったのだ。

そして、今に至る。



私がいることには目もくれず、持っていた本を開いて読書を始めた。
本にはカバーがしてあって何を読んでいるのかわからないが、恐らく天体の本であろうそれには幾つか写真が載っているのが水嶋先生がページをめくるときに度々ちらりと見えた。


「……あっ……」


視界に入った写真にちょうど月が写っているものがあった。
それは少し遠めにも関わらず、クレーターも綺麗に写っていて、周りには、漆黒の暗闇。
宇宙の神秘的な黒の中の月は、何よりも堂々と、そして儚げに存在していた。


「……読みたいの?」


はっと向くと、本に向かっていたはずの視線が私に向けられていた。


「あ……えっ、と……」

「そんなにジロジロ見られてちゃ、集中出来るものも出来なくなっちゃうよ」

「ごめんなさい……」

「別にいいけど」


そう言ってまた本に視線を戻した。
余程本を読みたいらしい。
水嶋先生が私をからかわないなんて。
ちょっとほっとするけど……正直、寂しい。
いつもなされていることがなされないのは、いくらただのからかいの対象であるにしても、もの足りなく感じてしまう。



遠い、遠いよ。
近付きたいけど近付けない。
近くて遠いから。
いっそもっと近くが、いっそもっと遠くがよかったのに。



私があの本を読みたいと思ったことがわかったなら(目は口ほどにものを言うけれど)、ああ、私の考えていることが、何もかも全て、あなたに伝わればいいのに。







不完全テレパシー
(少しだけでも、届いて)





2011/01/19