※BL表現あり。 苦手な方は注意。 私はただ、呆然と立っていることしかできないの。何もできないの。なーんにも、できないの。 だって、だって見ちゃったの。あの二人が抱き合ってるところ。理解はするように頑張りますって言ったけど、本当だったなんて。……ううん、そんなことは関係ない。性別なんて、関係ない。私が一番ショックなのは好きな人に好きな人がいたこと。 いつものように保健室に向かうと中から聞き慣れた話し声が聞こえた。中に入ろうとすると、一人が声を荒げ、明らかに入ってはいけない雰囲気だった。別に盗み聞きの趣味はないけど、そっと聞き耳を立てる。 ……あれ、泣いてる? 声を荒げながら啜り泣く声も混じっている。なんだか、悲しそうな、声。と、いきなり泣き声が止んだ。私は気になって、ドアをそっと、少しだけ、開けた。 そして……見てしまったのだ。 星月先生が水嶋先生を抱き締めていた。水嶋先生の顔は見えない。星月先生の顔は何だか辛そうな、泣きそうな、でも何故か、すごく幸せそうに見えたんだ。 「……あれ?夜久、どうしたんだ?」 後ろから新たな聞き慣れた声。 「陽日……先生………」 振り向くとそこにはいつも見慣れた顔。担任の陽日先生が立っていた。けれど、先生は私の顔を見た途端、目を見開いた。 「な、お前……泣いてる、のか……?」 「え……?」 ふと、頬を指で撫でる。確かに、濡れていた。どうやら知らないうちに泣いていたようだ。 「い、いえ、あの、これは……」 「夜久」 必死に隠そうと狼狽えて言葉を探そうとした私を、陽日先生はいつもの調子とは随分かけ離れた声で静かに制した。 「お前……好き、だったんだな。」 「……っ……!」 バレている。この心の中に、密かに温めていたはずの想いが。でも、何故?陽日先生は今の保健室の状況をわかっているのだろうか? 「ちょっと、こっちに来い」 そう言われ腕を掴まれ、私は何の抵抗もできずに陽日先生に引っ張られて行った。 連れて来られたのは、近くの空き教室。もう放課後で、私は生徒会の仕事を終わらせてから保健室に向かおうとしていたため、校庭やその他部活動の活動場所には居れど、校舎内にはもうほとんど誰もいない。ゆっくりと教室の戸を閉め、陽日先生と向き合う。陽日先生は何だか申し訳なさそうな、そんな顔をしていた。 「なあ、夜久。お前、見ちゃったんだろ?あの二人を」 「……………」 何とも言えなくて俯き黙っていると、陽日先生は大きく溜め息を吐き、観念したかのように、ゆっくりと、静かに話し始めた。 「……実は俺………あの二人のこと、知ってたんだ。……何回か両方に相談されて………な。……でもそんな大人の、況して先生のプライベートなこと、一生徒のお前には言えないだろ?だから黙っておいたんだ。だけど……まさか目撃しちゃうとはな………」 私は何も言えなくて、未だに口を閉じたままだ。 「お前は、あいつのことが好きだった、そうだろ?」 一瞬どう答えようかと体が強張ったが、ゆっくりと、首を縦に振り、頷いた。もうこの想いはバレているんだから、何でもいい―――半分自棄になって―――そう思ってしまった。 「そっか………やっぱりか……。お前のあいつに対する態度で何となくわかってたよ。」 ……態度に出さないようにしていたつもりだった。でも先生は気付いていたんだ。さすが陽日先生、生徒のことをよく見てよく把握している。 「先生……私……」 「びっくりしたろ?それに……辛かったな……」 そう言われ、ポンポン、と頭を優しく叩かれる。頭から微かに伝わってくる体温が暖かくて、私は思わず涙を流していた。 「……うっ、……く……っ……、」 泣き出した私をそっと腕の中に収める。いきなりの先生の行動に、私は戸惑った。 「……せん、せ……?」 「なあ、夜久。……俺じゃ、ダメか?俺じゃあいつの代わりになることはできないのか?」 そう言われ、ギュッと、さらにきつく抱き締められる。 「……え………」 「俺ならお前のこと、泣かせたりなんかしない。それに、お前のことをいつでも守ってやる。」 「陽日……先生………」 「……いや、あいつの代わりなんていやだ。俺のこと、見てくれよ……」 真剣な声色に、自分で言うのもなんか変だけれど、私への強い想いがひしひしと感じられた。 「夜久………」 失恋のショックで、私は弱っていたんだと思う。そこに突然の陽日先生からの告白。思わず私は、陽日先生の背中に腕を回していた。 移り香からの恋煩い (本当の優しさに触れて、受け止めたい) 2011/01/09 |