6-2 | ナノ








何か、の感覚がいつも心の中に留まっていた。
その感覚が残っていることを再認識すると、すごく、胸が痛くなった。



有李のことがあってから、しばらく琥太にぃのことを憎んではいたけど、思う度にいつも胸が苦しくなった。
恋とは違う、と思う。
第一、兄的存在の琥太にぃにそんな感情を感じるなんて有り得ないし、何より自分は同性にそんなこと感じるような男じゃないと認識している。
まあでもそんなのは自分の思い込みになるかもしれないから、遠い昔に感じた恋慕の情の感覚を一生懸命引っ張り出す。
ほら、全然違う、胸の痛み。
だから恋ではない、むしろ有李を思う気持ちのほうに似ていると思う。
有李を思うと胸が苦しくなる。
でも全然辛くはない。

……あれ、もしかしてこれが、家族愛、ってやつか。
琥太にぃのことでは辛くなり、有李のことでは辛くならないのは、きっとちゃんと認識しないでその感覚を感じていたから、きっと頭が混乱していたのだろう。恋であると無意識のうちに誤認し、何故そんな気持ちがあるのか、戸惑っていたに違いない。
それかもしくはシンプルに……憎んでいたか憎んでいなかったかの違い、かな?





長年の悩みから解放されて、ふと、急に彼女のことが思い出された。
僕がどんなに酷いことをしてもめげずに自分に向かってきた子。
恋はゲームじゃないと僕に一生懸命教えようとしてくれた子。

月子への想いは、今の僕にとって生きる糧に等しい。
でも、この想いはまだ発展途上だ。

そう、今の月子への感覚は恋のようなもの、まだ幼く、小さいものだけど、いつか琥太にぃや有李のような感覚になるときは来るのかな。

その時を待ち遠しく思った僕は、その時に存在しているであろう未来の自分に、ある言葉を投げかけた。







誰よりも強く持て
(そうしたら、誰よりも幸せにするんだよ)





2011/01/08