目を開けたらそばには愛おしい人。二人で体を寄せ合って眠っているこのダブルベッドが、なんだかものすごく広く感じた。 「琥太郎……さん……」 愛しの彼は相変わらず綺麗な顔で寝ている。在学中は保健室で仕事をしているその横顔によく恋をしていたものだ。それが今では結婚を前提に同棲するに至るなんて、思ってもいなかった。 「………ん、……」 朝だということをわかっているのか、まだ起きたくないと言うように少しぐずり、私を抱きしめていた腕を更にきつくした。 「………琥太郎さん……?」 眉間に皺を寄せて、辛そうな、悲しそうな顔をする。何か悪い夢でも見ているのかと思えば、ふいに開いた口から小さな声で「……月子………」と呼ばれた。 「なんですか?琥太郎さん」 寝ているのはわかってる。今のは完全に寝言だろう。だけど私の名前を呼んだことで、もしかしたら彼の夢に私が登場しているかもしれないと思い始めてしまうとなんだかこそばゆくて、それにいつものように私に答えてくれるような気がして、言葉をかけた。 「…………て、くれ……」 「………え……?」 「寝かせて……くれ………」 ………………。 「もうっ!」 「いたっ……!」 自分一人で甘い空想に浸っていたのがなんだか恥ずかしくなって、思わず胸板を叩いた。 「なんだ……人がせっかく眠っていたというのに……」 「そんなこと知りません」 「……機嫌が悪いな。俺がなんかしたか?」 「いーえ、何もないです。私ご飯の用意を………ちょっ、と……!」 腕の中から逃げ出して布団から出ようとすると、腕を引かれた。 その、刹那、 ちゅっ。 「………なっ……!」 軽いリップ音がして自分の唇に柔らかい感触を感じた。 「何がご不満だったのかわからないが、お詫びのキスだ。……それと、」 ちゅっ。 固まっていた私の唇に容赦なくもう一度キスをして、意地悪そうに微笑んだ。 「おはよう、月子」 「おはよう……ございます……」 私は反論することもできず、ただ顔を真っ赤にして朝の挨拶をすることしかできなかった。 フォーザライフオブミー (この笑顔に私は弱いみたい) 2011/01/07 |