inu27 | ナノ






探していたわけではない。探しものをしていて別のものを見つけてしまう。よくあることだ。


「これは………」


うん、よくあること。
今度会社の飲み会の仮装大会で使うから弓道着を探しておいてくれ、と頼まれて、隆文の書斎にある隆文専用のクローゼットをあさっていたら、まさか、出てきてしまうなんて。

外装にはやけに露出度の高い服を着ている(いや着ているというのか?)女の人が妖艶に微笑んでいる。デカデカと書かれたタイトルらしき文字は、あまり読み上げたくない。なんだこれなんだこの煽り文。煽り文も同様に読み上げたくない。恥ずかしいというか、え……察してください。
これは俗に言う……え、AV、というやつだろう。もちろん私は内容も外装も見たことはない。自分で買ったなんて以ての外。そして私たちの家には二人しか住んでいない。ということは、隆文の持ち物なわけで。……まあ健全な男性なら持っていても不思議はないと思っていたけど、こう、現実として目の前に突き付けられるとどうしても落ち着いていられない。
よりにもよって、巨乳ものだし、これ。
ふと、視線を下にして自分の胸を見てみる。
うん、むなしい。見るんじゃなかった。

…満足、していないのだろうか。普通の意味かはたまた性的な意味か、どちらにせよやはり妻たるもの、仕事で疲れて帰ってくる夫に家で疲れを癒してもらえるようはかることができなくてどうする。

でも考えていたってしょうがない。頼まれた仕事をこなす事が最優先だ。とりあえず弓道着を探そう。
だがしかし私は余程動揺していたのだろう、さっきのDVDをあろうことか隆文のデスクに置いたまま、探し物を再開したのである。





「ただいまー」


隆文が帰ってくるなり、お帰り!弓道着、見つけたから!ベッドに置いといたから見て!と夕食の準備をしているように見せかけて動揺を隠そうと台所から声を発した。私の脳内再生では隆文の呑気な声で、おうありがとなー、と聞こえるはずだったのにありがとうの途中くらいで隆文の言葉が不自然に途切れた。それによって、私はデスクの上に何があるのかを一気に思い出す。


「月子…これ…」


書斎から漏れてくる隆文の声が震えているような気がする。用意しているご飯たちには申し訳ないけど、緊急事態だ。全てのことを中断して、急いで手を拭いて書斎へと向かう。


「た、た、た、隆文……!」


するとそこには例のものを持って佇む隆文の姿。顔はパッケージに向いていて表情が読み取れない。
やばい…かも…?


「あ、あのねっ、きゅ、弓道着探してたら見つけちゃって、その、別に意図的に探してたわけじゃなくて、たまたま見つけちゃったっていうか、だからその、た、隆文が大きいほうが好きなのはなんとなくわかってたっていうかだからと言って私のこと好きじゃないわけじゃないっていうのもわかってるし、えっと、だから、その…っ!」


動揺が動揺を呼んで自分でも訳がわからなくなってきて、何をしゃべっているのかわからなくなった。慌てふためく私に驚いたのか、隆文はバカみたいに口を開けたまま私の様子を見ていたかと思うといきなりぷっと吹き出した。


「た、隆文……?」

「つ、月子、なんでお前が見られちゃいけないもの見つかっちゃったような態度取ってんだよ、本当ならそれは俺の役目だろうが…く、だ、だめだ、すまん、笑いが止まらん…っ」


あはははは、と大声を上げて笑い出した隆文を見て、ようやく自分の頭も冷静になってきて、私は何をやっていたのだろうと一瞬で顔が真っ赤になった。


「え、あ、う…」


さっきと同様に私は何を言ったらいいのかさっぱりわからなくて、母音を発することしかできなかった。
一人で突っ走って…ああもう何やってんだろ…。


「はあっ、はあ、笑い疲れる……でもまあ驚かせてすまん。実はこれ、白鳥のなんだ」

「え」

「白鳥はなあ、巨乳ものが好きで、なんでもこの女優が一番のお好みらしい」


手に持っているパッケージをとんとんと指でたたいて、さっきいやというほど凝視してしまった女の人を指した。
先程は動揺していたためきちんとは見ていなかったが、今見るとどことなく清純そうでいてだけど艶やかな雰囲気の女の人だった。


「おすすめだからと言って結構無理矢理渡されたんだが、俺は生憎、ある一人にしか興味がなくてな、」


そう言いながらいやらしいパッケージをデスクの上に置くと、私のほうへと近づいてきた。


「それに必要がないんだ。なんてったって、」


こんなにかわいい奥さんがいつもそばにいてくれるからな。
そう言ってぎゅっと私を抱きしめる。自然と隆文の匂いをすうっと吸い込むと、さっきまで高ぶっていた感情が和らいだ気がした。それとともにまた別の感情が高ぶり始める。
なんていうかもう、先程の行動の羞恥も本来なら起こるはずの怒りも何もない、ただこの温もりと言葉を享受できるならそれでいいやと思ってしまった。


「私、胸、小さいよ?」

「小さくたっていいぞー、ここにいっぱい夢と希望が詰まってるんだろ?」

「隆文、なんか親父くさい」

「いいんだよ、もう三十路近いし、十分立派な親父だ」


加えて本当の親父になるかもしれないしな、こんな物理的に薄っぺらい科学の進歩で抜いてる暇はねえんだよ。
いちいち表現が親父くさかったり、下ネタを平気で挟んできたりともうやりたい放題だけど、でもやっぱり許してもいいかな、なんて思ってしまうのは、きっと、私たちの間には愛があるからなんだろうなあ、だからこんなにも隆文に対して甘くなっちゃうんだろうなあ、なんて思いながら、自分の唇へそっと触れた温もりに自分の想いを乗せながら、深い意識の底へと沈んでいった。








愛を底辺に置きましょう
(そうすればほらね、寛大になれる)



2011/12/31