「あー…、なんか最近の番組、つまんねえな」 「そうだね…」 チカチカと眩しいくらいに様々な色を映し出しているテレビに向かって二人して溜め息をつく。笑い声が聞こえるバラエティー番組には今流行りの芸能人、私が結構好きな芸能人が出ているけど、番組内の出演者たちで楽しんでいるように思えて、私たちは置いてきぼり。何が楽しいのかさっぱりわからないほど程度の低いネタで盛り上がっている。 「他に見たいもんある?」 「ないよ。だからこれ見てるんじゃない」 だよなあ、なんて溜め息混じりで答える隆文はだらしなく二人がけのソファーに沈んだ。 「隆文、きちんと座る」 「へーへー」 私の説教に適当に返しながらよっこいしょ、なんて掛け声をつけて元のきちんとした体勢に戻った。テレビではまだ作り笑いのような乾いた笑い声が響いていた。 「でもこんなにつまんなかったら少しはだれたくもなるってもんよ」 確かにそうだ。このまま見ていたらきっと二人とも寝てしまうだろう。何年か前に受けた大学の講義より眠くなる(誰でも知っていそうな言わば一般常識の座学であったことに加え、あの教授の声がまた眠気をそそった)。けれど、見ている以上きちんと見るべきではないかと私は思う。見ないのなら消せばいい。そう思って私は隆文のほうを向いて言葉を発しようとした、のだけど。 「……なんでこっち見てるの」 「んー、なんとなく?」 「なんとなくで人の顔をじっと見つめないで」 「なんでだよ」 「なんでも何も、失礼でしょうが」 「俺とお前の仲に失礼も何もあるか」 「親しき仲にも礼儀あり」 「ったく、」 なんでこうも小言を言うようになっちまったかなー、なんて独り語ちて何故か自嘲の笑みをこぼし、そしてそれでもなおのこと私の顔を見続けている。 「なに、どうかした?」 「いやあ?」 にやにやしながらその先を言い淀んでいる隆文は、本人には悪いけどなんだか気持ち悪くて思わず顔を歪ませた。 「はっきり言って、きもちわるい」 「気持ち悪くて結構ですよ、自分でも重症だなーって思ってんだからな」 隆文の言っていることが理解できなくて、歪めた顔はそのままに今度は疑問の意を示した。 「……どういうこと?」 「えーと、だな……」 言おうか言うまいか、一人で百面相をしながらうんうんと唸っている隆文は何だか珍しくて思わず噴出してしまった。はっとしてすぐに真顔に戻したが、コンマ何秒かで隆文には気付かれてしまったようだ。 「あ、お前、今笑っただろ?」 「笑ってない」 「笑った」 「笑ってない」 「絶対笑った」 「笑ってないよ」 「いや笑ったな、だって俺見たし」 「笑ってない」 「ほら、その顔がすでに笑ってる」 「ばれた?」 「俺を誰だと思ってんだ?」 加えてお前は顔に出やすいんだからわかるに決まってんだろバーカ、なんて言うから少しむかついて頬を抓ってやった。いてて、なんて言いながらも本当は全然痛くないんだ。だってほら、顔が笑ってる。 「で、何を言いたかったの?」 「あ、話戻っちまった」 「隆文」 「ごめんごめん」 言うよ、言うからさ、早くこの手を離してくれ。 軽くつねっていたから漫画みたいに何を言ってるかわからないわけではなかったし、私も私で有言実行してもらいたかったからぱっと手を離した。 「聞き分けがよくて助かる助かる」 「隆文」 「はいはい言いますよ」 そう言っていきなり私の耳元まで唇を寄せてきたもんだから、私は驚いて離れようとしたのだけれど、隆文のほうが動きが早く、私の体を自分のほうに引き寄せて固定した。 「ちょ、っと、」 「ちゃあんと言うからよく聞いとけよ?」 隆文の唇から紡がれる言の葉は普段よりも少し低めで、外耳の近くから私の鼓膜に直に響いて、私の体をも震わせた。 「たかふみ、」 「小言言われてもどんな顔されても、それはお前が俺の傍にいて、こうして笑い合えてる証拠なんだよなって思ってすっげえ幸せだなーって思ったんだよ」 どんなことでも、お前のこと愛してるって思えてどんなお前も愛しくてしょうがない。 今度は耳から唇へ。たまにいきなりくるそんな甘い囁きが私に触れる度、私はどうやったって貴方から逃れられなくて。 苦しくなるほど胸がきゅんとして、辛いの。 こんなに胸が苦しくなるなんて (予想外の感情でした) 2011/12/31 |