o1 | ナノ






見慣れたあの子。
見慣れた景色。
いつもと違うのは、
たった一人で、一人きりで
その場に佇んでいたこと。





「莉奈、」

私がふと声をかけると体育座りでどこかを見ていたあの子がゆっくりと私のほうを向いた。

「琴子、か」

それだけ呟くと、彼女はまた同じ方向を向いた。
何か珍しいものでもあるのかと私も同じ体勢で彼女の横に座ってみた。が、いつもと何ら変わらない、体育館のステージ上。

「…他のみんなは?」

彼女がまた、ゆっくりと私の方向を向いた。

「今日は、誰も来ない」

「え?じゃあ二人だけ?」

私が尋ねたのにも関わらずまた元の形に戻ってしまった。

(…………何だ…?)

何かがおかしい、おかしい。
いつも元気なはずの彼女の態度も、今ある状況も。
彼女は今なんて言った?
誰も来ない?今日は部活の日なのに?部活の日というと必ず私たち以外に最低一人はいるはずなのに?
おかしい、おかしい。

「琴子、」

「……何?」

ぐるぐると考えていたため、突飛な彼女の呼び掛けに返事が数秒遅れてしまった。

「…人って、一人の人しか、好きになれないんだよね」

問い掛けでもなく、私に言うのでもなく、まるで彼女自身に言い聞かせるように発された言葉。
いきなり何を言いだすのかと思い、横を向くと、すぐそばに彼女の顔があった。

「な、なに…」

近すぎて少し照れ始めた私を、彼女はずっと何かを言いたそうに眺めている。

「なんか…あったの…?」

私がそう聞くと、彼女はゆっくりと口を開いた。

「…あきらめようとしたんだ、」

「へ?」

「こんなことはいけないって、ずっと思ってて。他の人にしなきゃって」

わからない、彼女のことが。
いつも一緒に笑い合っていた、目の前にいるこの子のことが。
いきなり、何を、言い出すんだろう。
それに、この辛そうな表情は…?

「でも、あきらめられなかった。やっぱり、大切だったから。」

やばい、やばい。
私の心が警報を鳴らしてる。
このことに気付いちゃいけない、早く逃げなきゃ、って。
でも、もう無理だった。



「好きなんだ、琴子のこと」



(…ああ、もう、ダメ…。)

私の中で、何かが弾けた。





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身内ネタ



前サイトから引用
2010/03/04