実は俺には、何度も初対面の挨拶をしている勇者部隊のメンバーがいる。
意味が分からないと思うが、色々と事情があるのだ。それに関しては本人がいい加減だとか悪意がある訳ではない。
ただ俺の巡り合わせが悪いのだ。本当に不思議なほどに。
気怠げな空気を纏った男が前から歩いてきて俺は少しだけ憂鬱な気分になった。
「よお、新しい勇者部隊か?」
好意的に俺を迎えるこの男はナマエ・セツ。タツヤの同輩である。
ナマエの視線を俺は居心地悪く受け止める。
じろじろと不躾だと思う奴もいるかも知れないがナマエの視線は喧嘩を売る意図はない。俺の首の聖印に気づき、警戒による観察ではなく“初対面の俺を覚えよう”としている視線だった。
それに気づいてしまった俺はどんな態度を取るのが正解なのか分からない。
「アンタにとってはそうかも知れないな」
「俺はナマエ。殲滅兵だ。よろしくな」
「ザイロ・フォルバーツ。電撃兵だ」
前はもうちょっと補足情報を加えてた気がするが、何度もしていると流石に飽きる。
だがナマエを責めることはできない。本人にとってどうしようもないことを責めても仕方がないからだ。
ナマエは俺のぶっきらぼうな自己紹介に気を悪くした風もなく歓迎してくれた。
「部隊員が増えて嬉しいぜ。戦略が広がるからな。その分問題が増えることもあるがな」
「遺憾ながら同意だな」
ナマエの発言はあながち間違っていない。勇者部隊の隊員が増えると言うことは新参の癖のある犯罪者が増えることと同義であるからだ。
アイツらと同列にされるのは甚だ遺憾だが、俺も世間的には結局ろくでなしな犯罪者に変わりはない。
「今から派兵されるから戦地で死んで忘れたら悪いな!もう一度教えてくれ」
そう。そこが問題なのだ。戦地で死んだナマエは蘇生時に周辺の記憶を失うことが多い。
俺との顔合わせも戦地へ赴く直前のため失われる記憶に入るというわけだ。
なぜか俺だけが顔合わせした後の戦地でナマエが死ぬのだ。ドッタから死神だとか失礼な事を言われたがしめておいた。断じて違う。
◆
「ザイロ、俺とお前はこの前会ったぞ?」
珍しく気を遣って先んじて自己紹介をした俺にこの仕打ちである。
もう忘れたのか?といった気の毒そうな表情に、忘れられてなかったことに喜ぶべきか、腹を立てるべきなのか、俺の情緒は滅茶苦茶だ。
聞けば前回の戦場では見事に生き残ったらしい。先に言えよ。
飯でも食いに行こうぜと馴れ馴れしく誘いをかけて引っ張っていったナマエに脱力感に苛まれた俺はろくに抵抗せずについていく羽目になった。
ーーそんなことがあったなと思い返して、あの後も色々とあった事を懐かしむ。
「ナマエがあまりにも死ぬからよほどの馬鹿かヤケクソなのか死にたがりのクソなのかと思ってムカついてた時期もあったな」
「そうなのか。ザイロは終始不機嫌だから分かんなかったな」
「俺はそこまで怒ってないぞ」
ナマエの普段の行動と言えば憤る俺を背後からいきなりオトしたり、ドッタを脅迫して目的のものをせしめたり、ベネティムに泣きつかれて手を貸してやったり(タツヤの世話をしているベネティムにナマエは少しだけ甘い)、ライノーをあしらったり、そんな感じである。
「たくさん怒ってるから面白いなと思ってみてたけどな」
ナマエは気怠げで世に倦んだような顔をするくせにたまに面白がってもみる。
俺はナマエと雑談やら世間話もするような仲だ。つまり嫌いではないが、実は苦手だったりする。
戦地ともなればまた別の感情を抱くが、食えない面があるのがなんとなく不得手とする理由だと思う。
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