「なら俺を楽しませてよ、山本くん」

出資者の男の冗談めかした言葉に山本冬樹は光明を見た。まだまだ自分もイケるようだ。
こっちだって本気で必死なのだ。突っ込まれようが突っ込もうが必ず出資させてみせる。
ステージを借りるのにも衣装やグッズを作るのにも広告をするのにも、何をするにも金はかかる。
いかに金剛石の如く輝くアイドルだろうと金がなければどうにもならない。可能性すらなくなるのだ。それは許されない。
だからこの男こそが、ミステリーキッスの命綱になのだと山本冬樹は信じてやまない。






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おはようございます。ナマエです。
結論から言えば、枕営業を強要された。
相手はミステリーキッスのプロデューサー山本冬樹である。
複雑な事情が絡んだりすることもあるが基本的にナマエはスポンサーであり山本よりも立場は強い。そんなナマエが出資を求めてきた山本に何故か枕営業を受け入れることを強要されたのだ。意味が分からない。
山本は確かに顔立ちが整っておりスタイルも良い。客観的視点からして男前だ。それは認める。
だがナマエが「言うことを聞かないとわかるよね?ゲヘヘ」なんて嫌らしい顔で馬鹿丸出しで下劣な欲望を突きつけたような事実は微塵もない。
ってか何だそのくだらない想像は。我ながら幼稚で馬鹿すぎる想像だなとナマエは頭を抱えた。
ナマエは先程から突き刺さるような視線を背中に感じている。圧がすごい。やめて欲しい。
だが、このままベッドに転がり続けるわけにもいかなかった。
憂鬱な気分で寝返りをうつと案の定、山本がキラキラと輝いた目でナマエを見ていた。

「おはようございます。昨晩はありがとうございます!ミネラルウォータです。どうぞ」

山本は妙にハキハキとした声で朝の挨拶と礼を言うと冷えたペットボトルを差し出してきた。
「ありがとう」と受け取ったペットボトルの水を飲む。冷えた水が乾いた喉を潤してくれる。美味い。
どちらがどちらの役割をやったかなんてこの際忘れることにしよう。「あっ、もしかして受けての方がいいんですか?すいません気づかなくて、俺はどっちでも良いですよ」と曰った山本はどちらでもいけるらしくナマエがどちらだったとしても選択肢はなかったらしい。心が死んだ。
艶々とした顔で無邪気に笑う幸薄そうな男にナマエは案外可愛い顔もするらしいなんて現実逃避をした。
最中の山本は必死で鬼気迫る感じで怖かったけどアッチの技術は高かった。慣れてるのか、慣れさせられたのか、それは分からない。
「慣れてるの?」などと聞くのはあまりにも不躾でナマエの心の中では冷たい木枯らしが吹いている。

「山本くん、言っておくけど一晩でアレは高すぎるよ」

話は山本の望んだ出資額に戻る。相当ふっかけてきてるのは舐めてるのではなく本当に困窮しているのだろう。身売りするくらいだから想像にかたくない。
だが、ナマエは1人の経営者として思うのだ。
ーーお前自分のこと一晩いくらだと思ってるんだよ。べらぼうに高い。確かに尊厳は金で買えないもので、高い安いを語るのは良くないがこちとら慈善活動じゃないんだぞ。

「つまり今後もこの関係をお望みですか。分かりました。覚悟はしてます」

「え」

持続的な関係ってなんだ。ナマエは乱暴に言ってしまえば金づるだ。
山本がプロデューサーの身でナマエの機嫌を取ったり、出資の旨みを伝えたり、交渉したりすることに同情はする。でも方法が突拍子もなさすぎるのだ。
ナマエにとって山本冬樹はただのミステリーキッスのプロデューサーでありそれ以上にはなり得ない。妙な意味で気に入った事実などない。だから普通に交渉してくれれば良いのだ。断るか受諾するかは保証はしないけれど。
つまり身体はいらん。枕もしなくて良い。ってかホントにやめて。訴えたらナマエが勝てるんじゃないか?山本冬樹の尊厳なんて買わないよ?買いたくないよ?

「大丈夫です。俺っ、ナマエさんを必ず満足させてみせます」

多分、山本もだいぶ精神にキテるんだろうな。
そんな事を考えながら心が死んだのでどろりとした目になるナマエに映る山本はそれはそれは生き生きとしていた。


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