「浮気したでしょ」

「はあ?」

関口は断じて浮気などしない。ナマエ以外にその気になることはない上に身に覚えも全くない。
それなのにそんな言いがかりを突然つけられたら青筋を立ててブチ切れたって許されるはずだ。
いったいなんの根拠があって関口を疑ってーーー「関口くん言ってたよね。私のこと好きだからネットで付け回して情報集めてたってさ」

あっ、身に覚えあった。
前言撤回。ブチ切れることは許されなかった。
反論やら怒声は関口の口から出る前に引っ込んで、唾とともにゴクリと飲み込まれた。
推し黙る関口をナマエは下から睨んでくる。

「なんで私以外の人のこと調べてるのかな?」

ナマエへのネットストーキングがバレたとき、関口は咄嗟に「お前のことが好きだから気になって仕方なかったんだよ」と言い訳をした。事実である。
ナマエはそれで納得して、関口は破局を迎えずに済んだし、本人公認のネットストーカーとなった。
その過去が今になって関口を苦しめる。
ナマエは関口のネットストーキングを自分への好意故の行動だから認めていたのだ。
ビジネスだからお前以外をネットストーキングしているなんて説明したら拗れる気しかしない。
どうなってんだもっとマシな言い訳用意しとけや過去の俺、などとキレていても何も始まらない。
しかも間の悪いことに関口が調べている相手は女だった。

「調べてるのって、女の人だよね」

「はい、そうです」

「しかも、楽しそうだったよね」

「それは事実です」

いつの間にか関口は正座の体勢でチクチクと刺してくるナマエの詰問に肩身の狭い思いで一つ一つ答えていた。こう言うときに変に嘘ついたり誤魔化したりするのは悪手だ。なので関口は大人しくナマエの怒りを受ける。
一つ言わせて貰いたいのは関口が楽しんでいたのは獲物を追い詰める感覚であって、決してすけべ心からではない。裏社会にズブズブとハマった図太くて狡猾な賢しい女どもに感じる情など欠片もなかった。
比べるのも烏滸がましいがナマエのことの方が何百万倍も好きだ。
そんな事をこの場で言えば余計に怒らせるだけなのは明白なので言わない。

「なんなの関口くん、事務的な返事ばっかりしてるし」

「俺は浮気してない」

ひとしきり関口を責めて落ち着いたのか、ナマエの状態は激怒からちょっと拗ねてるくらいに変化した。
ナマエだって関口が本気で他の女に入れ込んでいると思っているわけではないのだろう。
よいしょと言いながらナマエが関口の膝に乗ってきた。怒ってやってるのか、それとも関口を許してフランクに接しているのか分からない。
ともかく正座した人間の足に乗るなんて軽く拷問だ。それを指摘する勇気が今の関口にはない。

「意地悪しちゃって悪かったとは思ってるけど私はまだ怒ってるんだからね」

「ああ」

話しながらナマエがゆらゆらと落ち着きなく動くから関口の脚もグリグリと無闇に圧迫される。
このまましばらく愚痴を聞いてやればナマエの機嫌は治るだろう。関口の脚を代償にして。
それが何十分後か何時間後なのか不明だが関口にはただひたすら耐えることしかできなかった。


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