その日の降水確率は50%だった。つまり天気予報を信じるなら確率は半々で、雨が降っても降らなくてもおかしくない。
ナマエは傘を持って行くかどうか悩んだ。
雲の見分けなんてナマエにはつかない。睨むように空を見てナマエが頭を悩ませていると、不意にメッセージが届いた。差出人はドブで「今日は晴れるよ」というメッセージだった。
ナマエは半信半疑だったが、ドブが「雨に関する俺の勘は外れたことはない」なんて言うから、半分の確率しか教えてくれない天気予報よりは信じてみようかなという気持ちになっていた。

ーー結果は惨敗。出かけて1時間もしないうちにみるみる曇った空は大粒の雨を落としてきた。
風も強くて土砂降りで、例え傘があったとしても出かけるかどうか悩むような空模様だった。
慌てて軒下に移動しても後の祭りで、すでに全身はびしょ濡れになってしまっている。
響き渡る着信音にナマエは眉を顰めて通話ボタンを押した。

「雨降っちゃいましたよ。ものすごい量です」

『大変だったな。近くにいるんだろ?ウチにおいで、雨宿りさせてあげるよ』

ナマエが今いる場所からだと自宅よりもドブの家の方が近い。歩いて数分程度だ。
ザーザーと容赦なく降り注ぐ雨も目的地が決まれば苦ではない。バシャバシャと水を蹴る感覚は正直言うと楽しかった。










ナマエは濡れた頭をこれ見よがしにドブの胸に擦り付ける。ドブは文句を言うこともなく余裕そうに笑っていた。くつくつと笑う音が悔しくてナマエは唇を尖らせている。

「ドブさんが悪い」

「ああ、珍しく勘が外れてな。悪かったよ」

頭からタオルを被せられてゴシゴシと擦られる。柔軟剤の匂いがしたのでビックリした。ドブが玄関で靴を脱いだナマエを誘導するように肩に手を添えてきたので黙って従うことにして、導かれるままに足を動かすとドブの家の脱衣所にたどり着いた。

「風呂沸かしてるから入りな」

用意周到である。ナマエはドブの好意に従うことにした。身体が冷えきっているので肩まで浸かると温かいお湯にほっこりする。だらしなく顔を緩めたナマエがルンルン気分で鼻歌を歌っているすりガラスの向こうからドブの声がする「服は洗っとくよ。それと新しいタオルと着替えを置いておくから」「ありがとうございます」そんなやりとりをして数十分後、すっかり温まったナマエは風呂を出た。
そしてドブが用意してくれた着替えを確認する。
ドブのものらしきシャツと袋の中に入っていた新品のボクサーパンツ…かなり大きいがないよりマシだろう。
ゴウンゴウンと回ってる洗濯機の中にナマエの着てきた服は入っているだろうからそもそも選択肢はなかった。

「ドブさん、お風呂ありがとうございます」

「ああ、ちゃんと温まってるみたいで安心したよ」

「何で半裸なんですか?」

「ナマエちゃんにシャツを濡らされたから一旦脱いでから新しいのを着るのが面倒くさくなった」

ソファに座った半裸の男性がいた。言わずもがなドブである。ドブは丈の余ったナマエのシャツをチラリと見て機嫌良さそうにビール瓶を傾けていた。
酒が入ると体温が上がって脱ぎたがる人がいるがドブもそのタイプなのかも知れない。
ぽっこりお腹のナマエの父親とは違いドブの引き締まった腹筋はとても硬そうだった。
ナマエがしげしげとドブの体を眺めているとドブが気まずそうに肩をすくめた。

「そんなにみられたら照れるよ」

「ドブさんってすごい身体してますよね」

「見惚れちゃった?」

「ウチの父親も同じくらいにしてやりたいです」

父親のぷにぷにのお腹も捨てがたいが、肥満は健康によろしくない。
大事な身内なので健康で長生きして欲しい。ドブほど逞しくは無理かもしれないがせめてぽにょぽにょからは脱却させたかった。

「ドブさんは筋トレしてます?トレーニングメニューはどんなものですか?」

「俺は実戦…ゴホン、素人には危険で激しいからナマエちゃんのお父さんにはオススメできないかな。そうだ、ランニングから初めてみたら?」

何故かガッカリした表情で、それでも的確なアドバイスをくれるドブの話に耳を傾けながらナマエは熱心に頷く。
ナマエは入浴中にドブが注文しててくれたらしいピザを頬張りながら、ドブは頼りになるなと感動していた。


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