ナマエは気づいてしまった。最近関口はガミガミしすぎではないだろうか。
着替えたら脱ぎ捨てるな洗濯機に放り込め、食器を洗い場に馬鹿みたいに溜めるんじゃない、布団は干せ…etc etc etc。
そして、関口はキレながら家事を行いガミガミタイムが終わったらすぐに寝てしまう。曲がりなりにも恋人同士でそれはちょっと、どうなのだろう。たまにしか一緒にいられないのに!
つまり関口にとってイチャイチャよりガミガミの優先順位が高いって事だ。由々しき事態である。ナマエは危機感を覚えた。
そういえば関口の笑った顔を最近見てない気がする。牙を見せるような凶悪な笑顔がナマエは好きだったのに。
ナマエが不精すぎてすぐキレる忍耐力が皆無な関口のささやかな忍耐もそろそろ限界が近いのかもしれない。
自分がズボラだからって愛想尽かされたら正直悲しい。なのでナマエは頑張ることにした。


真面目に生きていこうという決意を実行することは困難を極め…ることも案外なかった。多分、関口が手厚かったので甘え過ぎていたのだと思う。確かに頼られっぱなしになったら関口も腹が立つだろう。気づいてよかった。

人並みに家事をし始めて知ったことがある。

貯めるからダメなのだ。その場でその場で消費してしまえばいなんのことはない。後回しにするから面倒くさくなっていたらしい。習慣って大事なんだなと改めてナマエは感じた。

来るべきXデーに向けてナマエは清く正しく生きてきた。汚いとかだらしないなんてもう言わせないってくらいの気持ちである。

関口のガミガミタイムがなくなればその間にイチャイチャ出来るのでは?天才なのでは?

だが、ワクワクと恋人と過ごす日を迎えたナマエに待っていたのは非情な現実だった。

「俺がやることがねぇだろうが」

一通り家の中を確認した関口の第一声である。そこでまたキレちゃうらしい。
関口は難しい子だった。ナマエにもキレる権利はあったと思う。真面目にして文句を言われる筋合いなどない。
でも、そんなのはどうでも良かった。本当にどうでもいい。心底どうでもいい。
そんなものよりナマエを脅かしているのはーー眠気である。

「どうでも良いからもう寝るね」

ダメだもう眠い。最近のナマエは規則正しく早寝早起きしてるもんだから関口が帰ってくるような深夜には既に眠い。
「やれば出来るじゃねぇか」って笑ってくれないのか。ガッカリである。そこでナマエの思考は睡眠欲に飲まれてしまった。
ナマエは作戦は明日練ることにした。今日はとにかく寝たかった。
関口が背後から何か言ってるらしいがナマエはうとうとしながら構わず寝室へと向かう。
寝室のドアを閉めようとすると関口がドアに手をかけて閉めるのを妨害してくる。

ーー大丈夫大丈夫。何も問題ないよ。関口は合鍵持ってるから戸締りとかもちゃんとしてくれるでしょ。

「勝手に帰ってていいから」

ナマエは頼むから私を寝かせてくれという思いで一杯だった。
自分で何を言ってるかよく分かってない。だが関口の力が緩んだのはわかった。その隙にバタンと締められたドアの向こうの関口の表情なんてみることもない。









爽やかな朝日でナマエはスッキリと目覚めた。規則正しい生活ってのは精神肉体に良いものらしい。
ベッドの上で伸びをして、そういえば昨日は関口が来てたんだと思い出す。
寝室にいないってことは帰ってるだろう。ソファに寝てるかもしれないけど関口が横になるにはちょっと狭い。
洗面所に向かい顔を洗ったり歯を磨いてリビングに向かうと関口がこの世の終わりみたいな顔をしていた。しかも何故か正座している。

「帰ったと思ってたよ」

ナマエが声を掛けると関口の肩が震えた。なんでまた正座なんて苦行をリビングで行っているのかナマエにはさっぱりである。
兄貴分に叱られたとか理不尽な命令を受けたとかだろうか。
恐る恐るといった風に関口がナマエを見る。凶暴な性格の癖に時折酷く臆病そうな顔をみせる理由がナマエには皆目見当がつかない。

「まだ怒ってんのか?」

「何が?」

「俺は別れねぇぞ」

朝っぱらから正座しながら何言ってんのこの人。
寝起きで動かない頭で取り敢えずコーヒーでも淹れようと思ったナマエはキッチンへ向かう。
着いてこようとしたのか慌てて立ち上がろうとして痺れた足で悶え苦しむ関口の考えはナマエにはさっぱり分からなかった。何してるのこの人。まあでもちょっと可愛いかもしれない。そんな所も好きだった。


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