フリチンでスゴロク(とんだデスゲーム)に参加する事を余儀なくされた野球拳大好きはぶっちゃけこの上なくピンチであった。
吸血鬼たちの迷惑行為を取り締まる退治人と相対するのとは訳が違う。何せ相手は楽しみたいという目的で動いているからだ。みんな享楽主義者である。
取り締まりならば捕縛で終了となるが、暇つぶしの為に巻き込まれた場合、ゲームを終了させるしか逃げる術はない。それすらも相手を満足させられなかった場合は保障されてない。
スゴロクのチュートリアルで地雷を踏み抜いた主催者は少し焦げたくらいでケロリとしていたが野球拳大好きは死を覚悟した。絶対アレ死ぬヤツ。
チラリと主催者の共犯者と言える拉致加害者を見やる。長身の老吸血鬼は有名だし、ヤバい気配をビンビン感じるし、どうにも逃げられる気がしない。

「チクショーー、やってやろうじゃねえか」

ヤケクソになって叫びながら記念すべき第1投、出た目は4。先程の地雷マスは回避できた事に内心でホッとする。

「バニーガール…?」

パカリと開いたパネルの中にご丁寧にうさ耳と蝶ネクタイ、カフス、うさぎのしっぽを模した飾りをつけたレオタードが入っていた。
さっき服を着たいと思ったのは確かでもそんな装備は望んでなかった。





その後、吸血ウツボカズラに喰われかけたりせり出す棘に貫かれそうになりつつ野球拳大好きは奮闘した。それはもう頑張った。泣きそう。
こんなに野球拳以外で一生懸命になったのは久しぶりだ。
帰ったら弟たちと鍋囲みたい。そんな細やかな望みを糧に彼は頑張った。
しばらくするとその奮闘と祈りが通じたのか、救世主となる存在たちがついに現れた。

「そこまでだ、吸血鬼め」

ぞろぞろと現れた奇抜な格好のコスプレ集団みたいな人間たち。(こういうと奇妙な感じだが)顔馴染みの退治人だ。
この際、一旦捕まるのはどうでもいい。命大事、絶対。

「どうも、吸血鬼”スゴロクゲーム大好き”です。君らも参加するの?」

あくまで友好的な感じのナマエに退治人たちの表情は険しい。通報を受けてここに来たのだから無理もない事だ。
新横浜の高等吸血鬼ってのは変態やロクでもないのが多いので今回もそのパターンだと思っているようだ。
割と正しい評価だが今回彼らは少しばかり危機感が足りなかった。

「違ぇよ。今すぐその迷惑行為を中止しろ。爆音が五月蝿いって苦情来てるんだよ」

代表としてロナルドが声を上げるとナマエはえっ?っという顔をした。

「マジか。え、真祖さん結界は?」

五月蝿いと言われたのは多分、地雷の音だろう。屋外で行うので防音や妨害者のシャットアウト等々は結界担当の真祖に任せていたはずだ。
音漏れしたと言うことはもしかして結界を張らなかったのか。退治人らしき人間もここに来てるわけだし。(騒ぎを聞きつけたら退治人や吸血鬼対策課の人が来るので彼らの相手もしてあげましょうとガイドブックに書いてあった)
先程の真祖のターンに出来た落とし穴に向かってナマエがどういうことだと声をかけると底の見えない闇の中から声が返ってきた。

「途中から参加したい人がいたら困るかなと思って」

「それは確かに困る」

「でしょ」

「流石」

何やら仲間と会話しているナマエにドラルクのただでさえ青い顔がもっと青くなった。
何かをする時の彼女の元には大体友人がいる。ドラルクに馴染み深い人物で、二人が揃った時の厄介さと言ったら筆舌に尽くしがたい。
つまり混ぜるな危険の組み合わせの二人なのだ。

「ロナルドくん、彼女はヤバいぞ。マジで。今すぐここを離れた方がいい!」

切羽詰まったドラルクの声。どうにも雲行きが怪しいらしいことに気づいたロナルドは何事だと聞き返す前に、ヌッと現れた長身に青ざめた。

「人数も増えたし、仕切り直ししようか」

「それがいいね」

回避不可能な災厄が死角(落とし穴の中)から現れる。某真祖にして無敵の吸血鬼である。
この後、スゴロクが終わってからも地獄の五次会まで連れまわされたのは言うまでもない。


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