ドラゴン族の拠点と聞かれればクーロン島を思い浮かべる魔族が多いのではなかろうか。
一所に集まるドラゴン族の勢力としては確かに最大だろう。だがクーロン島に住まうのは“全てのドラゴン族ではない”。


ゼツランよりも、ゼツランの父の代よりも、昔々にクーロン島を出たドラゴン族たちがいた。


いかなる種族にもはぐれ者はいたりする。
そんなクーロン島からはみ出した変わり者たちの集団は島外で生きていくことにしたらしい。
学者肌だったり、そもそも争いを好まなかったり、油物が苦手…食の問題だったり、仁義ってのがちょっとよくワカラナイって感じだったり、ドラゴンにも色々いるからだ。
その末裔たちは同じように島外で生きている。
今はクーロン島から飛び出したドラゴン族を祖とする末裔が、島外の集団を取り纏めている。ゼツランの遠縁の男で、族長であるゼツランの父とはまた違った指導者だった。名を、ナマエと言った。

「よお、ゼツラン」

ナマエは逞しい肉体に無理やり白衣を被せて、眼鏡をかけたようなドラゴン族の男だった。
捲り上げた白衣の裾から覗く腕の太さはどう見ても“学者”には見えない。
ニヤリと笑った拍子に見えた口元にズラリと鋭い牙が並んでいる。
フィールドワークに腕っ節が必要だからと“ちょっと鍛えた”らしいが、ゼツランの知るドラゴン族の中でナマエと同じくらい強いのは父親くらいだ。

「ナマエ!きておったのか」

「お前の父ちゃんが、たまには顔を見せろとうるさいからな」

挨拶を終えて少しだけフラフラして帰るつもりだろう。そうはさせるか。
地を蹴って飛び上がったゼツランをナマエは苦もなく受け止めた。高い高いをするようにゼツランを放り投げて、着地する所を見届けた後に「お転婆娘め」と低い声で呟く。

「今日は泊まっていくのじゃ」

「マジか」

「マジじゃ」

「しょうがねぇな」

クーロン島のドラゴン族たちはゼツランに甘い。なんでも喜んで手伝ってくれる。
ナマエも大概甘いが“しょうがねぇな”と面倒そうにしながらゼツランに付き合ってくれる所が好きだ。

「お前の父ちゃんは俺の話を聞きたがるがすぐ寝るよな。ゼツランもだけどな」

「ナマエの話は小難しすぎて分からん」

無理もない。かなり噛み砕いて説明してくれている筈だが、学者であるナマエの話は専門的すぎる。
酒が入ったゼツランの父なら尚のこと眠くなるだろう。

「それって俺が話す意味あるのか?」

「内容は分からんのじゃが、ナマエが楽しそうに喋っておるから好きじゃ!」

ゼツランが呆れたようなナマエににこりと笑って正直に答えるとへらりと力の抜けた顔をしたナマエに頭を撫でられた。

「聞きたいならいつでも聞かせてやるよ」

「うむ」

膝に乗って話を聞いてると丁度よく眠れそうなのでそんな時がいい。
ナマエが聞いたら“しょうがねぇな”と言いそうな事を考えながらゼツランは相槌を打った。

「そうだった。俺はゼツランに確認しておきたいことがあってな」

「なんじゃ?」

言ったは良いものの、うーんと悩ましげに唸ったナマエは口の中で言葉を吟味して転がしているようだった。
チラリとゼツランを見下ろしたナマエに、ゼツランは瞬きしてキョトンと首を傾げる。

「端的に聞くぞ。飯は食えてるか?」

「今日もたくさん食べたぞ」

「夜は眠れてるか?」

「ぐっすりじゃ」

ナマエはじぃっと観察するようにゼツランをみていた。
些細な変化も見逃さないと言った具合の真剣な視線に少し照れ臭くなる。
異常はないと判断したらしいナマエは大きく頷く。

「誘拐されたって聞いたけど、元気そうでよかったよ」

「誘拐ッ……そうじゃ!ナマエ!聞いてくれ!」

それがきっかけだった。火のついたように不平不満をぶちまけるゼツランにナマエは少し圧倒される。
人間に誘拐されたこと、幼馴染を待っていたこと、待ちきれずに自力で脱出したこと、幼馴染はあろうことか自分で誘拐してきた人質を“甘やかしていること”などなどゼツランには不満はいくらでもあった。
ゼツランの話を聞き終えたナマエは、自分なりに結論を出したようだった。

「寂しかったんだな」

ナマエはゼツランの全力の主張をあっさりと一言で言い切る。
反射的にパンチを喰らわせたら思いの外身体が硬くてちょっと拳が痛かった。やれやれと言った顔で痛めた部分をさすられるので余計に腹が立つ。
まあ、なんだーーとナマエが話を続けた。普段はそうでもないが時折ゆっくりとのんびりとした口調になるナマエの喋り方がゼツランは好きだった。

「よく頑張ったな、ゼツラン」

ナマエの言葉からは見守るような暖かさが滲んでいる。
胸に湧いた温もりに照れ隠しとしてやっぱり手が出たが先程と違い拳は痛くならなかった。


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