「俺はお前に興味があるらしい」

「捕食的な意味で?」

「だからなんでそうなる!」

畏怖されることは気分が良い。それは海の頂点たる矜持を満たしてくれるものだからだ。
しかし、だから君とは距離を置くと堂々とのたまわれるとそれは望んでないと思ってしまう。
そもそもナマエは歩み寄る気が皆無であった。お互いの適切な距離とかいう建前で分厚い壁を作られている。

「君は自分の口癖を覚えていないのかな?」

「茶化さず聞け」

それはそうだけれども喰う気なら言う前に行動している。
グニャリと歪んだアイパッチがサカマタの不機嫌を示していた。
サカマタが解せぬのはドーラクの戯れならばナマエは許すことだ。

「私にとっては中々真面目で深刻なことなんだけど」

だからなんで俺だけが、とサカマタは思う。
勿論、ドーラクだけが特別なのだと考えもした。
それに間違えはなかろうが、動物達の中で取り分けナマエが警戒しているのはサカマタなのだ。
鋭い爪を備え、大きな牙を持ち、見上げるほどの巨躯のバケモノを恐れぬくせに、むしろ朗らかによって行くくせに。
同胞に人とは思えないと言われた異形を貼り付けたバケモノをあれほど心を許すくせに。

ーーナマエにとってヒトであることは特別なのだ。

サカマタは、両足で地を歩いても、言葉を紡いでも、一度たりとも傷つけたことなどなくても、ナマエからの信頼が得られない。ヒトではないから。

「俺にその気はない」

「だろうね」

少なくとも、今は。なんて付け加えられて仕舞えば取りつく島なんぞありはしなかった。







「お前を傷つけないでやるから信用しろって随分な上から目線だな」

気怠げな声がする。無視してもよかったが神経を逆撫でするような物言いにサカマタは溜息を一つこぼした。気が進まないが無視するとすごすごと逃げるようで気分が悪い。
サカマタから見ても大柄な男は呪いもちの一人だ。捻くれた態度しか取らぬ男は癇癪持ちの伊佐奈よりも相手をしていて疲れるのだった。

「そんなつもりで言ったわけではない」

「無自覚ときたか!アイツに受け入れて貰いたいと思うなら改めた方がいいと思うがね」

志久万は嘲笑うように口元を歪め、牙をむき出す。
志久万はナマエだけは大切にしている。それこそ唯一と言っても差し支えない程度には。
志久万はナマエだけの味方だ。わざわざサカマタを励ましたりアドバイスをくれてやる気はないのだろう。

「だが、無理だろうよ。海のギャング殿。弱い生き物への歩み寄り方なんぞお前が分かるはずもない。喰う相手しかいねぇもんな」

「……」

「お前が少し素直になればそこは解決出来るかもな。だが大きな問題が残ってたな」

わざとらしく今思いついたとばかりに志久万は続けた。

「館長さんにすら噛み付くお前がどうやってナマエを襲わないと保証できるんだ?」

んん?とワザとらしく聞いてみせる志久万は嫌らしく嗤う。
答えに窮したサカマタにこれまた愉快そうに肩を揺らした。

「ようは絶対に噛みつかない猛獣なんていないって事だよ」

そんな相手を信用なんて出来るか。言外に含まれた意味にギリリとサカマタの牙がなった。


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