居城が全壊したとかでドラルクが最近住居を移したらしい。
東京の新横浜に住まうロナルドという退治人の元でコンビを組んでるとか。オフラインゲームは回線さえあればどこでも出来るのでナマエは知らなかった。
ナマエ経由で真祖に伝わる事をドラルクは恐れていて隠していたが、一族全体に知れ渡った今となっては関係ない事だ。
ナマエは本人に言われる前に遊びにきた真祖に教えられたわけだが。
「めっちゃウケるんだけど、何したらそんな事に?見たかったなぁ」
「私も是非この目で見たかった」
「わかる」
「これに経緯が書いてるらしい」
ロナルドウォー戦記、という題名の本を手渡されパラパラとめくってみる。退治人の自伝小説らしくそこにドラルクと思わしき吸血鬼のことなどが書いてある。
思いの外面白そうだったのであとでじっくり読んでみようと思った。
「流し見で経緯は分かったけど、あの過保護なドラさんが許したの?」
「それに関しては心配ない。ドラウスはもう様子を見に行ったらしい。ドラルクはあそこにいた方が楽しそうだって」
「マジか」
過保護なドラウスらしい行動の早さだ。連れ戻してないと言うことはその場所がドラルクにとって良い場所だったのだろう。
城にポツネンと使い魔と一人だけで引きこもるより余程良いとナマエも思う。
それはそうとして、どうせならナマエもドラルクに会いに行こうと思う。ロナ戦見た限りではとても愉快な街のようだし。
「よし、私もドラちゃんに会いに行ってみよう。真祖さんも一緒に行こうよ。let's新横浜」
「いえーい」
無表情のままドンドンパフパフーと太鼓とラッパで合いの手を入れてくる真祖はノリノリである。
そんなこんなで現在ナマエの手にあるのは新横浜観光ガイドブック(吸血鬼編)である。近くの書店で売ってたので購入した。
新横浜を観光する上でのマナーとか、注意点、おすすめスポットとかが書いてあるものの吸血鬼向けの本だ。
そんなものがある時点で新横浜の吸血鬼の人口密度の多さはお察しだろう。
「真祖さんみてみて」
「何、面白いものあるの?」
長身を折り曲げて覗き込んできた赤目がナマエが指差す観光におけるマナーの一文を読み取った。
チラリと目配せしあった両者は一瞬にして以心伝心する。
「めっちゃ面白そうじゃない?」
「それな」
グッと親指を立てて笑うナマエに彼もまた無表情のまま親指を立てた。
新横浜入りして早速吸血鬼が人間に絡んでる現場を見つけた。
ジャンケンの手形をふんだんにプリントした着物を着た”野球拳大好き”と名乗った彼はその名の通り野球拳という脱衣ゲームを仕掛ける恐るべき吸血鬼らしい。
ナマエが遊ぼうと誘うと機嫌よく受けた彼は今日は厄日だったのだと思う。
「ジャンケンつっっっよ!!!」
厳粛なる野球拳の結果、丸裸にされた野球拳大好きが項垂れる事になっていた。
ナマエの動体視力だと相手の出したい手を見抜き勝つことは難しくない。
真祖とじゃれ合う程の実力が本来は駆け引き或いは運ゲーなゲームを完全なる実力ゲーに昇華させていたからだ。
本来の遊び方とは違うのでは?と思いつつズルじゃないからいいのかなとも思っていた。
「ほらほら、その野球拳大好きTシャツに早く着替えて。裸のままがいいならそれでもいいけど」
「ぐ、気持ちはありがてえが敗者は黙して去るのみなんだぜ」
多分、野球拳好きとしてのプライドとかそういったものなのだろう。
確か負けた人間に野球拳の大好きと書かれたTシャツを着せてたと思うのだが自分は全裸のままでいるつもりらしい。
だが、ここで去られるとナマエは困る。
「うん?違うよ。今度は私と遊んでくれるんでしょ?」
遊びに誘う相手なのだから相手の遊びにも付き合うのは当然のことだ。
野球拳も十分楽しかったがナマエも”彼”もまだまだ遊び足りない。今度は自分の番であると主張するのは何も間違ってないはずだ。
ワクワクと胸を高鳴らせ、予め一緒に考えた口上で名乗りをあげる。
「先ず名乗らせてもらおう。我が名は”スゴロクゲーム大好き”」
なんでも新横浜では吸血鬼は特徴や好きなもので名乗り上げて、それに相手を誘うのがマナーらしい。ガイドブックにはそう書いてあった。
遊びならなんでも良かったけど、ちょうど前回遊び損ねたし、大人数で遊べるスゴロクが丁度良いと思ったのだ。
「さて、スゴロクゲームはお好きかな?」
にぃと口角を吊り上げたナマエの背後でゆらりと大きな闇が揺らめいた。
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