カルエゴとの面談を終えて思う所があったロックはジャズのために破耳笛を手に入れてやる事にした。
見つかると煩そうなのでナマエには秘密だ。
新品を手に入れて試しに吹くことも考えたが後に弟と関節キスなどマジ勘弁なので却下。
そんなことを考えていると不意にカタンと音がしてそちらに目を向けたロックは一瞬思考がフリーズした。今日は帰らないと聞いていたはずだったが、呆然とした表情のナマエがいた。
それにしても間が悪い。
内心で悪態をついているロックにナマエは素早く駆け寄り、ロックを腕に閉じ込めて頭を撫で撫でと撫でてくる。逃げる間もない。
「どうしたんだよ、ロック。そんな防犯グッズなんて持って。可哀想にいじめられたのか?」
「や、そういうんじゃないって」
ぎゅううぅっと抱擁を受けたロックは頬を痙攣らせる。
ナマエからの熱烈な抱擁など絶対に勘弁して貰いたい。しかも全身をコーディネートした趣味の良い高級アクセサリーが当たって絶妙に痛い。
腕を突っ張り距離を離そうと試みるがナマエの力は強く解けない。蛇のようなしつこさである。
括ってある長い癖っ毛を引っ張ってやろうかと考えたがゲロ甘なナマエとはいえ無駄な挑発は懸命ではないと考え直した。
「お兄ちゃんが優しく癒してやる」
「聞けよ!」
絶対に断じて癒しにはならない。いつまでもナマエの中でロックは子供で、(自分のことは棚上げして)それがまた腹立たしい。
一つのことを説明するのに何でこんなに大事になるのか。リアクションが大袈裟なのだ、このブラコンは。
「説明するから離せよ」
「このままじゃダメ?」
「野朗二人で抱き合っても気持ち悪いだけだろ」
「俺は楽しい」
「いいから、は・な・せ」
「はーい」
強めに言うとしぶしぶといった風にナマエが離れる。
そこでロックはカルエゴが家庭訪問に来たこととその時にした会話をナマエに伝えた。
案の定、ナマエは騒ぎ出す。想定内である。これが嫌だったのだ。
「ナンデ!?お兄ちゃん何も聞いてないよ!」
「カルエゴ卿に迷惑だろ。何時間も生徒の話されても」
根掘り葉掘りジャズのことを質問して、そして聞かれてもないのにジャズ語りを始めるに決まっている。ついでにロック語りも始まるかもしれない。
それは断固拒否したい。
「お前らの可愛さを伝えるのは兄の義務では?」
「そんな歳じゃねぇから、俺もジャズも」
「ばっか、可愛さは年齢に関係ねぇから」
照れ臭そうに言われてもナマエである。ナマエが姉ならもう少し可愛げがあったかもしれない。
詮無いことだ。
「音を確認したいから取り敢えず吹くな、軽めに」
ロックの手にあった破耳笛はいつの間にかナマエの手に移動していた。
マジマジと笛を観察していたと思えばそんなことを言い出す。
笛を咥えたナマエが目配せしてくるのでロックは耳を塞いだ。ジャズとナマエが関節キスになるかもしれないなんてくだらないことを考えながら。
ナマエは軽く吹いたのだが破耳の名に恥じぬ甲高い音があたりに響く。笛を吹いたナマエには音波の影響はないが音が知りたいだけならこれで十分だ。
「よしよし、この音がなったら駆けつけてお兄ちゃんカッコいいってなるいい所見せたらいいんだな」
ナマエならどこにいても駆けつけるだろう。ブラコンだから。
本来は盗みがバレた時の対策だったのにとんだ最強の兄召喚アイテムになってしまった。耳を壊された上にブラコンまで召喚されるとか相手は運がなさすぎる。
「笛が吹けたらそこまでしなくてもよくね?」
「カッコいいよ、お兄ちゃんって言われたい」
親指と人差し指で顎を挟む決めポーズがイラッとくる。
内心で思っててもロックもジャズも言わないと思う。
「ロックも欲しいか?」
「俺はそんなヘマしねぇよ」
「だろうな」
即答だった。誇らしげに答えるナマエがロックは案外嫌いではない。
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