エルダーはグールメイカーの異名を持つ古き吸血鬼である。対立時代には人間たちには勿論、多くの同胞たちにも畏怖されてきた。
しかし、強大な力を持つ故の悩みも出てくる。
長い時が過ぎ去り、よく言えば平和な、悪く言えば生温い時代の到来により、彼は退治人との決着のつけどきを見失ってしまった。
ぶっちゃけ乗り遅れた感は否めない。
どうしたものかと悩みながらいつものように根城で休息を取っていると来客があった。グールを操り出迎えると客人は旧知の孫を名乗った。

「ナマエと言ったか」

「どうも、エルダーさん。これはウチのじーちゃんからの手土産」

「ありがたく頂くとしよう。奴はどうしたのだ?」

「腰やっちゃってしばらく動けない。なので私が代理」

エルダーとナマエの祖父がやることと言えば近状報告やら他愛ない雑談だ。情報収集はいつの時代でも大事なことだ。血族を率いる身としては特に。ついでに安否確認もある。
おうおう元気にしてるか?みたいな感じで、お互いに息災か確認し合うのが常なのだが今回奴は腰を痛めたらしい。
次回の揶揄いのネタを見つけたことは幸いだが明日は我が身かもとほんのちょっぴり心配になる気持ちがあった。
今度からたっぷりと栄養価の高い血液を飲んで、腰痛予防の体操とかしてみよう。
そんなエルダーの憂いに気づく様子もなく、またそんな悩みとはまだ無縁であろう年若き吸血鬼はじっとエルダーを観察していた。

「エルダーさんに一つ聞いていい?」

祖父のお使いのご褒美としてエルダーが渡してやった飴を口の中で転がしながらナマエが尋ねる。

ーー近頃の若者はすぐに答えを聞きたがる。

やれやれと言いたげに胸中でごちたエルダーはそれでも尋ねられたこと自体には満更でもない様子だった。

「いいだろう」

「何故グール?本体は?」

グールが本体のように振る舞うことが多く、エルダーの本来の姿を認識しているものは数少ない。
旧知の孫とはいえ、いきなりとっておき扱いの本体をお披露目するのは躊躇われた…というのは言い訳で、本体は来客を迎えられる状態ではないのだった。

「引き篭もりだから?」

「違ッ…えー、コホン。舐めるなよ、小娘!私ほどの吸血鬼になると若輩者に容易く姿を晒すような事はないのだ!!」

実際、本体は棺桶の中でぐーすか寝ているだけなのだが古の吸血鬼としての矜持があるのでそれを言うのは憚られた。結果として尊大で傲慢で感じになってしまったのだがエルダーはいい感じに誤魔化せたと思っている。

「それはつまり私は勝負して勝たなきゃいけないって事でいいんだね」

つまりって何。なんでそうなるのか全く分からない。なんなのこの子。最近の子って怖い。
独特の思考回路をしているナマエに嫌な予感を感じ取ったのはエルダーが古き吸血鬼だからかもしれない。エルダーは対立時代も含め長きに渡る経験もあり退治童貞であっても危機察知能力は優れている。
強大な力を持つ吸血鬼は往々にして変わり者が多い。この場合の力とは単なる腕力などではなく催眠や結界、変身などあらゆる分野で他者に与える影響力のことを示す。
要するに他人を振り回す傍迷惑な強者という奴だ。

「私ね、かくれんぼ得意だよ」

可愛らしく首を傾げて微笑む姿は悪戯っ子な孫を彷彿とさせたがそんな可愛らしいものではもちろんない。
姿を現すか、逃げ回る二者択一を迫られたエルダーはゴクリと喉を鳴らした。

「タイム」

「いいよー」

一時的に時間を稼ぎ全力でナマエを迎える準備に勤しみながらエルダーは腰を痛めたナマエの祖父を恨んだ。


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