スッと持ち上げられて視線が高くなる。そのまま降ろされると思いきや靴底に硬い感触があり結構な高さの踏台に乗せられたことがわかった。なんせ小柄なナマエが真祖と同程度の視線になる高さだ。

「はい」

「ど、どうも」

当然のように差し出されたぬいぐるみを流されるままに受けとると真祖は満足げに頷いた。
毎度毎度この流れなのでナマエの自室にはぬいぐるみが溢れている。大小様々で種類も豊富でそろそろ部屋を一つ用意しなければならないかもしれないと思う程度には多くなっていた。

「久しぶりだね。元気だった?」

「ええ、勿論です。御真祖様もご健在なようで安心しました」

ご健在じゃない所なんて全く想像できないものの一応社交辞令として言っておく。

「みんな息災なようで私も嬉しい。今日はたくさん楽しみなさい」

余興をするとか言いださなくて良かったと安心しつつ見送った去りゆく背中の存在感は半端ない。というか下ろして欲しかった。
降りていいものやら分からずタイミングを失い途方に暮れているナマエに近づく吸血鬼がいた。

「ナマエ君、久しぶり。…ウフッ、げっ、元気そうだね」

「笑わないでよ、ドラルク」

真祖に悪気は全くなくともいい晒し者なのは分かっている。案の定、笑いを隠さず絡んできたドラルクにナマエはげんなりしてみせた。














真祖が自分よりも大きいものをとても怖がる子供がいることを知ったのはナマエがいたからだった。
社交的な者が多い血族は幼少期でも真祖を恐れたりしなかったが、特に人見知りで臆病なナマエは真祖が大きくて怖いとよく泣いていた。大きさの基準は父親のようで確かにナマエの父は長身な方だが真祖のように二メートルはない。
近づくたびに泣き喚かれどうしたものかと試行錯誤しているとナマエは父親に肩車された状態では平気だと気づいたのだ。
ならば真祖よりも高い場所にいさせれば良いのでは?と試してみると見事に成功した。
父親はとても恐縮していたが真祖自身が肩車で連れ回しまくったのは記憶に新しい。
すっかり大きくなりお年頃なので流石に肩車は問題があるので何かしらの台に乗せるようになった。ぬいぐるみを渡すのは昔からそうだったからついそうしてしまうからだ。
真祖はナマエの幼少期の感覚が抜けきっていない。

「可愛いなぁ」

困惑顔のナマエを思い出しながら真祖は呟く。
勿論、ナマエだけではない。真祖にとって家族である血族はみんな可愛い。男でも女でも子供でも成人になっても、いつまでも可愛くて何よりも大切な存在だ。
真祖の目線の先ではナマエがドラルクにからかわれて頬を膨らませているところだった。
膨らんだ頬を突いて潰したら流石に怒られるだろうか。大人しい子だから怒りはしないかな。試してみようか。
無表情ながらワクワクとした空気を纏った真祖が踏み出す前にナマエが真祖の視線に気づいた。

「御真祖様、どうしました?」

ちょっと塵になってるドラルクを締め上げながら、にこやかに尋ねるナマエに真祖はナマエの頬を突こうと伸ばした人差し指を誤魔化すように折り曲げた。

「何でもないよ」

「そうですか。なら、こちらにいらしてお話ししましょう。御真祖様の昔話を聞かせてくださいな」

首を振り否定した真祖をナマエは呼び寄せた。
ナマエが昔から体を使って遊ぶより話す方が好きなのは大人しくて女の子らしいからだろうか。(ドラルクを締め上げた光景を目にしても真祖からすればナマエは大人しい部類になる)
合いの手が上手く請われて何度も聞かせた話を飽きもせずに目を輝かせるから真祖もついつい長話をしてしまう。
残念ながら真祖の悪戯は失敗で、しかしなかなか悪い気はしない。

「じゃあ何から話そうかな」

真祖はいつかナマエの話を聞きたいと思う。嬉しいことや悲しかったこと何でもいい。
ナマエの見てきたものや感じたことを聞かせて欲しい。
そんなことを考えながら思い出話に花を咲かせた。


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