誰しも勢いとか、感情に任せて何かとんでもないことを言ってしまったことはあると思う。
長身の吸血鬼にひたすら付き纏われてお願いがあるだとか言われれば嫌な予感しかしないわけで、あんまりにもしつこいのでやってしまった。
俺早まったなと後悔してる真っ最中だ。
それでは俺の回想をどうぞ。

「ナマエ」

「ああもうしつこいな!そんなに言うなら100年以内に俺を捕まえられたら何でも言うこと聞いてや「それ本当?」」

「………」

「今何でもって言ったよね」

サァーと血の気が引く俺にずいっと迫る真祖の顔。赤い目がジッと見てくるので体を仰け反らせ距離を取りながら考えてみた。
このゴーイングマイウェイで好き勝手してる嵐の如き吸血鬼が、わざわざ俺に命令したいこととは何ぞや?
今でも散々振り回されてるんだぞ。これ以上の無茶がこの世に存在してるのかって感じだぞ?ヤバイよ、そんなのに付き合ってたら命が無限にあっても足りないし俺のあってないような寿命もゴリゴリ削れちゃったりしない?





マジでガクブルしながら逃亡生活。東へ西へ北へ南へ。
その中で美しいもの愉快な人間や同胞、見たこともない生き物たちがいた。落ち着いたときにあいつと一緒にもう一度見たいなぁとか思ったりする。
楽しみつつデカイ影が俺を追ってるんじゃないかといつも気が気じゃない。たまに見つかり全力疾走。人生でこれほど必死に走った事あったろうかって感じ。
あいつ怖ぇよ。無表情なくせに眼だけが異様に光った状態で追ってくるんだもん。リアル鬼ごっことかマジ勘弁。
そんな状態でも間接的な交流は続く。あいつの息子に仲介を頼んだ。誕生日とか土産物はドラウスに頼んで渡して貰っている。会う度にいっつも小難しい顔で可哀想なのでそろそろ許してあげてくれと言う。なんの話だ。
聞き返す前に不穏な影が近づく。なので俺はいつも逃げている。答えは聞けずじまいだった。




そんな逃亡生活もあと少しで約束の期限を迎えると言った時期だった。気の緩みとか油断とかあるよね。まあ、そんな感じ。
俺を人身御供にして逃げやがったYはマジあとで半殺しにする。絶対。
背後からグワッと伸ばされた長い腕にホールドされ足先が宙に浮く。強靭な腕にグエッと息が詰まった。

「やっと捕まえた」

仰け反るように上を見ると馴染みの顔があった。
この状態で俺を捕まえてるのが別人だったら恐怖しかないけどな。
久しぶりに近くで顔見たなぁなんて現実逃避を、一瞬して覚悟を決めた。

「へいへい、俺の負けですよ。分かったから離してくれ」

約束は約束で、負けは負けだ。逃げ回っててなんだが俺だってそこまで往生際は悪くない。
降ろすように促すが真祖は一向に俺を離す気配がない。

「おい、今更約束を反故にしたりしねぇぞ」

「逃げない?」

「そりゃ、追いかけっこは終わったしな」

「本当に?」

なんだよしつこいな。ちょっとムッとしていると真祖が手を離した。地に足をつけて振り返るといつもの無表情が出迎える。

「ナマエ、久しぶり」

「ああ、顔を合わせるのは久しぶりだな」

「いつもドラウスからお土産とかプレゼント受け取ってたよ。ありがとう」

「おう。それで、一体俺に何をお願いしたかったんだ?」

そう言えば内容聞いてなかったよな。聞いちゃうと断らせてくれなさそうじゃん?
俺の命に優しいお願いであれと願いつつ真祖の顔を見上げた。

「最初は楽しかった。けど、途中から面白くなくなった。早く終わらせる事ばかり考えてた」

俺の問いの返答ではなく何故か始まる語りに思い当たる節があった。
確かに途中から追いかけ方がガチっぽくなったよな。めっちゃ怖かったんだからね!とか茶化せる空気ではないのでお口チャック。

「いつもみたいに君と遊ぶ方が楽しかった」

「そうか。俺もそう思うよ。それで、お願いは?」

俺も疲れてたし同意する。早く言って欲しいなぁと促すと真祖はようやくお願いとやらを口にする気になったようだった。
スッと背筋を伸ばし俺は真祖の答えを待つ俺は平静を装いつつドキドキバクバクしてる。

「私と友達になって」

「はぁ!?」

俺のなんてこと言ってやがるんだこいつはと思った。
あの強大で万能で誰からも恐れられる真祖にして無敵な吸血鬼が!そんなことお願いするのか!?
その力に反したあまりにちっぽけな願いに笑いしかこみ上げて来ない。そもそも前提が間違ってる。

「お前…そんなんお願いすることじゃねぇからな」

だって下らないじゃないか。お前そんな事をずっと考えてたのか。考えながら俺を追いかけ続けてたのか。100年近く?
ガチで追いかけられて色々恐ろしい想像してた俺の恐怖を返せとか、じゃあ今まで俺たちの関係ってなんだと思ってたんだよとか、色々と言いたいことは多くあった。
と言うか俺だって赤の他人にここまで振り回されて付き合うほどお人好しじゃねぇよ。お前本当に何も分かってねぇなと、呆れる気持ちとほんの少しの怒りを込めて目を細める。

「友達って何するか分かってるのか?」

「……分からない」

だろうな。そうだと思った。お前そんなんだから俺と友達じゃないなんて思えるんだよ。
そもそも何をしてやるとかされるとかそんなもんで決められたもんじゃないしな。
Yとか見てみろよ、普通に裏切るし。それは今はいいか。
改めて聞かれると説明に困るんだが、俺はとっくにお前のことを友達だと思ってるんだぜ。

「はっはっは、そうかそうか。実は俺にもよく分からん。でも一つ分かるのは友達ってのは気づいたらなってるもんなんだよ」

ーーだからお前と俺はとっくに友達ってやつじゃないのか?
そう続けた瞬間、反応する間もなく手加減抜きで抱き絞め殺されそうになったのでもう少し距離を取りたいと思いました。


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